イオンエンターテイメント株式会社×千葉商科大学

千葉商科大学サービス創造学部は、同学部の公式サポーター企業である「イオンエンターテイメント株式会社」と協働し、「映画興行市場におけるサ-ビス創造」(講義名:サービス創造実践1B)と題した全8回の特別講義を行った。経済産業省の「産学連携サービス経営人材育成事業」として採択された同学部の教育プログラム「In-Campus Real Business Learning」(※)の一環として実施された同講義が、果たした役割とは。

 
(※) In-Campus Real Business Learning
千葉商科大学のキャンパスで行われているリアルな企業活動からサービスを学び、企業とともにサービスを創造することを通じ、サービス創造もしくはサービス経営に資する人材を育成する教育システムとして構築することを目的とする。
 


シネマ教育事業は、映画業界の変革を起こすきっかけづくり

イオンエンターテイメント社は、イオンシネマ 85劇場を運営、国内最多の719スクリーンを展開する映画興行会社だ。家庭で映画鑑賞ができるVODサービスの拡大や、若い世代の映画離れが加速化している現状を受け、今回、千葉商科大学サービス創造学部とともに、シネコン業界では国内初、正課科目として単位付与される「シネマ教育事業」に乗り出した。ゴールは、「映画興行市場におけるサ-ビス創造」。新作2本、旧作1本の映画鑑賞に加え、映画関連事業の3つの柱、制作・配給・興行に携わるプロフェッショナルがゲストスピーカーとして講義を行い、これらを受けた学生たちが、最終的に同社提示の課題に対してプレゼンテーションをするというものだ。
この講座をコーディネートした同社コンテンツ・プロモーション部 部長の小金沢剛康氏は、「千葉商科大学サービス創造学部から、業界の変革を起こすきっかけづくりをしたいと思っています」と狙いを語る。
 

同講義をコーディネートしたイオンエンターテイメントのコンテンツ・プロモーション部 部長の小金沢剛康氏(左)と、担当教員の中村聡宏専任講師(右)。中村専任講師は、「エンターテインメントは、生きるうえで必ずしも必要はないもの。だからこそ、それをビジネスにするのは最上級に難しい。エンターテイメントを生業にしている方々は、人々の心を動かすパワーにあふれていると思います」と学生たちに語り掛けた。

 


映画業界=技術革新

講義初回に登壇し、映画産業の現状について語ったのは、映画配給事業を行う20世紀フォックス株式会社の営業本部シニアマネージャー・平山義成氏だ。斜陽産業といわれることもある映画業界だが、実は近年、映画公開本数、映画興行収入も上昇傾向にある。その背景には、シネマコンプレックス(1劇場に5以上のスクリーンを持つもの)の増加や制作スタイルの変化などがあるが、なかでもデジタル化が大きく影響しているという。
「映画ビジネスは技術革新と切っても切れない関係性にあります。昔は映写機で映画を上映していましたが、現在はデジタルシネマになりました。ボタンひとつで違う映画を上映することができるようになり、上映できる本数も劇的に増えました。さらに、2009年12月に公開された『アバター』を皮切りに、3Dブームが起こったことも興行収入の後押しをしました。」
イオングループのイオンシネマやローソングループのユナイテッド・シネマなど、日本の流通大手が映画館ビジネスに参入したり、国内大手映画制作会社である東宝、東映、松竹がシネコンを都市部につくったりと、映画館ビジネスは再び盛り上がりを見せている。
「映画産業は水物であり、来年ヒットがあるかはわかりません。しかし、映画ビジネスのすそ野は広がっている。とくに海外については未開拓な部分が多いので、そこにビジネスチャンスがあると言えるでしょう」と平山氏は今後の展開に期待を寄せる。
 

20世紀フォックス株式会社の営業本部シニアマネージャー、平山義成氏。映画産業の市場規模や、現在の業界事情を話す。

 


映画業界の未来は明るい

イオンエンターテイメントの代表取締役社長牧和男氏とユナイテッド・シネマ株式会社の代表取締役社長渡辺章仁氏による、「映画館ビジネスと映画興行市場」をテーマにした対談も行われた。
レジャー、エンターテインメント市場の36兆円、音楽、ゲーム、映像市場は11兆円、これと比較して、映画市場の2000億は市場規模が小さい上に横ばいだ。しかし、二人とも口をそろえてそれでも、映画業界の将来は暗くないと話す。
「エンタメ業界の事業領域を広くすることでチャンスが増えると考えています。」(牧社長)
「今の日本は国民の半分以上が映画館で映画を観ない現状ですが、例えば、一人が2回見れば4000億になります。何か仕掛けをすれば、簡単に倍にすることができるのです。もちろんパワーが必要なことですが、細かいことを積み重ねて実行していくことで、必ずそれが可能になると思います。」(渡辺社長)
では、劇場に足を運んでもらうため、新しいサービスを創造し続けている両社はどのようなことに注力しているのだろうか。牧社長は、「まずはお客さまが何を期待しているのか、どの時間帯にかけるのか、いつ誰と見るのかによっても変わってきます。まずはお客さまの行動パターンを考えることから始まります」と語ると、渡辺社長は「何がヒットにつながるかわかりません。老若男女関係なく、非日常の空間を演出する。どんな人も楽しめる体制、対応、ホスピタリティを含めて大事なこと。笑顔で帰ってもらうシネコンづくりをめざします」と述べた。
さらに、映画業界の魅力についても言及。渡辺社長は「とにかく楽しい業界。エンタメの仕事は他の仕事とまた違った達成感や充実感があって、この仕事がやめられない理由はそこですね」と語り、牧社長は「映画自体に消費期限がない。映画って、同じ作品でもシチュエーションが違えば、当時見た時とは違う気持ちで見ることができます。昔見た映画でもすごく新鮮に見られますし、勇気と夢を与える仕事だと思っています」と笑顔を見せた。
 

イオンエンターテイメントの代表取締役社長牧和男氏(左)とユナイテッド・シネマの代表取締役社長渡辺章仁氏(右)。学生からの事前質問に答える形で、講義が進められた。

 


全8回の講義を終えて

講座の終盤には、映画興行市場におけるサービス創造を課題に、学生たちが15チームに分かれてグループワークを行った。学生からは、「レンタル彼女」「特典付き半券」「毎日11日はSmart Day」「大ヒット割」などさまざまなアイデアが出た。
小金沢氏は、「2017年3月から新サービスを展開するにあたって、実際提案のあった内容も含めて検討を進めていきます。企画提案はソフト面・ハード面さまざまでしたが、どの提案もワークしていく過程でバージョンアップされていく様子に感動しました」とコメント。同・コンテンツ・プロモーション部 プロモーショングループマネージャーである鈴木兵部氏は、「映画業界にどっぷり浸かっている我々では思いつかないようなアイデアをはじめ、工夫したら実現できそうなものがたくさんありました。実学を理念としている千葉商科大学の学生だからこそできたことだと思います。とくに、プレゼンやグループワークに長けている学生が多いと感じました」と語ると、同・コンテンツ・プロモーション部 プロモーショングループ小池剛大氏は「学生の皆さんだからこそ、自由な発想で面白い意見が生まれたように思いました」と、映画業界のプロフェッショナルたちにとっても学生たちのアイデアは新鮮だったようだ。
 
小金沢氏は、「私たちが直接学生さんたちと近い距離でやり取りさせていただき生の声を収集するということは、当然会社として大きな武器になります。その中で、シネコンをはじめとする産業構造を理解してもらいながら、映画の素晴らしさを感じ、映画を好きになってもらうことを目指しました。どの世界でも『後進の育成』は課題。映画産業で働く者として、同じく映画の世界で活躍する人を見つけ、そのキッカケを提供していくのは義務だと思っています。今回の取り組みをメディアに色々と取り上げていただいたことで、映画業界のさまざまな方が知ってくださったようですが、『映画の素晴らしさを伝えたい』と話してくださる方が多いことに改めて気づかされました」と振り返る。
鈴木氏も、「これまで、大学生の前で授業を行うような経験がなかったので、社員の育成の場としても非常に意義があったと感じています」と話した。
 
学生たちからも好評だったこのカリキュラムだが、今後はどのような展開を見せるのか。「基本的に、ネットや本で調べられることを講義するつもりはありません。生の声を聞く、実際に体験する、失敗してみる、などの経験を織り交ぜながら発展させていきたいと考えています。今まで弊社が行ってきた教育事業は、子どもたちを中心とした映画製作の原理原則を学ぶための工作教室だったり、映画を見て感想文を作成してもらったり等、感受性を育むプログラムに注力してきました。大学連携においても、学生さんたちが嬉々としてアイデアを創造できる環境をつくっていきたいですね」と小金沢氏は言う。
 

講義では、ゲストスピーカーから学生たちに質問が投げかけられる場面も多く見られた。

 


必要とされる人材とは?

映画産業に必要とされるのは、どのような人材なのか。
「今年度のわが社のスローガンは、『自ら考え、自ら実行』。お客さまを知って自分たちで考えて、それに向かっていってほしいと従業員に対してメッセージを発信しています。今後期待するのは、現状を否定し新しいものをつくり出せる人。皆さん、結局は自分の知っている領域で企業を選択していきます。学業はもちろん、アルバイト、クラブ、ゼミ、さまざまな領域での経験を増やすことによって、企業研究し、チャレンジしてほしいと思っています。」(牧社長)
「自分でしっかり目標を設定し、その目標にコミットできる人を求めています。」(渡辺社長)
さらには、「次代を担う皆さんもぜひたくさんの人に出会い、力を吸収してほしい」(小金沢氏)、「華やかそうで古い業界ですが、革新的なことをしていきたい。学生のみなさんが、自分が業界を変えるんだという強い思いを持って、映画業界の門戸をたたいてくれるきっかけとなれば、非常に嬉しい」(鈴木氏)など、先人たちは未来の“映画人”にエールを送った。

 

牧社長と渡辺社長、20世紀フォックス株式会社のジェシー・リー社長(左端)が、サービス創造学部の吉田優治学部長とともに。

 
 

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