音楽家・DJ・プロデューサー
大沢伸一

2017年6月、音楽家・大沢伸一氏の”音楽への挑戦の歴史”とも呼べる伝説のプロジェクト 「MONDO GROSSO」のアルバムが14年ぶりにリリースされた。千葉商科大学サービス創造学部の特命教授を務める大沢氏が18年1月、同大学の「ユニバーシティ・アワー」に登壇。アルバムのタイトルでもある「何度でも新しく生まれる」をテーマに、なぜ「MONDO GROSSO」を再始動したのか、どのようにアルバムがつくられたのか、そして彼の音楽論について学生たちを前に語った。

 

サービス創造学部の吉田優治教授(左)との対談形式で行われた大沢伸一特命教授の講義。

 


14年ぶりにアルバムをリリースした理由

MONDO GROSSOは、1991年に京都で結成され、93年にメジャーデビューした。96年からはソロ・プロジェクトとなり、さまざまなアーティストとコラボレーションしながらつくり上げたソウル、ジャズ、ファンク、ヒップホップやブラジリアンを融合した音楽は、日本のみならず海外でも人気を博してきた。現在、大沢氏は、MONDO GROSSO以外にもミュージシャン、DJ、プロデューサーなど、さまざまな役割を果たしながら音楽業界の第一線で活躍し続けている。
2015年9月には、同大学サービス創造学部の特命教授に就任。翌4月からは音楽好きの学生が大沢氏の指導を受けながら非常識なイベント企画を考える「大沢伸一特命教授塾」を開講するなど、サービス創造教育の一翼を担ってきた。
今回、その大沢特命教授が同学部の吉田優治教授と対談形式で、ユニバーシティ・アワーに登壇、同大学の1年の学生を前に自身の音楽論を語った。
 

まず初めに大沢伸一とは何者か、そして、MONDO GROSSOを知るべく、MONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』より、「ラビリンス[Vocal:満島ひかり]」、「惑星タントラ[Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]」、「春はトワに目覚める[Vocal:UA]」のミュージックビデオ(MV)がスクリーンで流された。
中でも『ラビリンス』は、Youtubeで再生回数900万回を超えたヒット曲。音楽制作を行った大沢特命教授は、14年ぶりにリリースした新しいアルバムについて、「具体的な理由は……会社のプレッシャーですかね(笑)。14年も空いたので一から伝えていく難しさもあり、チャレンジでした。一般的にバンドが復活しても、昔好きだった人が聴くにとどまることが多いと思うのですが、MONDO GROSSOの場合、幸いにもメンバーが特定されていないグループなので、一曲一曲違うボーカリストをフィーチャーでき、自由度があったことも功を奏したと言えます」と語る。
今回のアルバムでは全曲日本語詞という新しい試みにもチャレンジしたが、14年前とのもっとも大きな違いは、MV(ミュージックビデオ)の存在意味だと明かす。
「Youtubeがメジャーではなかった時代は、MVはそこまで重要視されていませんでした。しかし、今回はそこがきっかけになって爆発している面があるので、恩恵を受けたと同時に、ひとりだけで何かをつくる時代ではないと感じました。」
 

大沢特命教授は最近の若者が二極化していると話す。「お金を稼げないとダメという人間と、お金に振り回されるべきではないと思っている人間。僕は後者が好きで、それぞれ独自の幸せや価値観を違うところに見出す必要がある。つまり多様化しないといけないと思っています。」

 


DJは音楽の先導者でなければならない

日本を代表するDJとして、今も毎週のようにDJを行う大沢特命教授だが、実は「DJとは呼ばれたくない」と言う。「DJと呼ばれる職業は、過去20年くらいで大きく様変わりしました。今、巷で活躍しているようなDJのスタイルをDJと呼ぶのであれば、僕が一番やりたいことではないです。僕にとっては音楽全般にかかわっている中にDJという作業があるだけ。とくに、今のDJは音楽に興味を持っているというより、DJという行為だけを切り取って楽しんでいるに過ぎない感じがします。そういうスタイルは僕は好きじゃないです。」
では、大沢特命教授が考えるDJとはどのような存在なのだろうか。「音楽の先導者であり、無言のMCみたいなもの。その人がいることで、周りを音楽の旅に導いていくことが大切で、そのDJがウケようとか媚びようとすることとは、まったく違うものだと思っています。今は、クラブに来ている人たちもとくに音楽を聴いていない。それってクラブと呼べないと思うんですよね。枠にとらわれず独立したクラブやバーがもっと増えていけばいいと思います」と独自の見解を明かす。
 

そもそも、日本でクラブが誕生したのはいつ頃なのだろうか。「僕の解釈では、1990年代の初頭頃ではないかと思います。その頃、普通の人が興味を持たない音楽の中にも面白い音楽があると考えている好き者がクラブに集まりだした。そういった音楽を聴くにはゴールデンタイムではなく、夜中にならざるを得なかった。もちろん背徳感とか、大人の世界とか、不良的な要素も含まれている部分もありましたが、夜12時で終わってしまうディスコとの差別化や抵抗意識があったと思います」とクラブ誕生の経緯について触れた。
 

学生たちに挙手制で意見を求める大沢特命教授。吉田教授は、大沢特命教授の話に対し、「マーケティングや経営学においては、大多数の顧客が満足してくれるサービスや商品を出すのが100点満点の答えですが、今の時代、人と違うことを体験して学んで、人と違うことを発言して行動していく方がその人らしくていいのかもしれませんね」と話す。

 


音楽に携わる者への警鐘

滋賀で生まれた大沢特命教授は、小さい頃から音楽に触れる機会が多かった。洋楽ばかりを聴いていた大沢少年は、中学になると、音楽に関して周囲の友人たちと趣味が合わないことを痛感。孤立していく一方で、好きな音楽にどんどんのめりこんでいき、その後バンドを結成したという。
「当時は、人の共感を得ない、人に理解されないことに割と快感があったと思います。皆さん、誰かの共感を得るために努力をされているかと思いますが、共感の先にあるものって平均化。アイドルでもモノでも何でもいいと思いますが、誰かひとりがいいと言っているものよりは、100万人がいいと言っているものの方がみんな好きなんですよね。でもそれって平凡。僕は青春時代、100万人が好きなものだったら、どんなに興味があっても嫌いになろうと過ごしてきた。おそらく、皆さん僕に興味がないと思いますが、僕も皆さんに興味がない。でも、そういう興味がないところから何かが始まることもある。嫌われることを目的にしてはいないですけれど、“普通の人たちに理解されてたまるか”という気持ちで音楽をやってきたので、今もその精神は変わっていない。好きも嫌いも勝手に理解していただいて結構。相互理解なんてなかなかないですから」と独自の理論を展開した。
 

その一方で、音楽に携わる人たちには警鐘を鳴らす。「宿命的に誰かの共感を得られないと生きていけない状況がありますが、お金は違うことで稼いで、自分の好きな音楽を続けていく手段はあると思います。自分自身の音楽に関しては経済的な面は前面に押し出したくないので、他のアーティストに楽曲を提供させてもらったり、企業のCM音楽を担当させていただいたりすることで、両面を支えているという感じですね」と話した。
そして最後に、「ほとんどの人はスタンダードな音楽に興味がない時代に差し掛かった。しかし、僕がその音楽業界を代表して、『もっと音楽を聴こうよ』と言いたいとも思いません。音楽が自分の人生に必要がないのであれば、むしろ距離をとってほしい。中途半端に入ってきて、周りに同調して“いいね”と言っているのは、音楽の文化を壊していっているのと同じ。そういう人は出て行ってください」と“大沢節”を炸裂。大沢特命教授らしい視点からの叱咤激励で、学生たちにエールを送った。
 
 

エイベックス・マネジメント株式会社の畠山敏美氏は、「このアルバムについて、大ヒットは狙っていなかったのですが、彼がつくる音楽のキャスティング、ミュージックビデオ、情報を出すタイミングを戦略的にできれば、確実に音楽好きには届くと思っていました。リリースする際、年代、性別などどの層にこのアルバムを売るつもりか周りによく聞かれて答えてたのが、例えば生活の中で音楽を気にしている人がすべての年代に10%ずついるなら、その10 %に届けて注目されればヒットする可能性があると考えていました」と裏側を語った。

 

大沢特命教授がデイタイムにDJを行ったクラブイベントに、障がい者の方とともに参加した鹿倉菜七海さん(サービス創造学部2年)は、「印象に残ったことは、耳が不自由な子にDJを伝える難しさ。耳の不自由な方たちは、音が聞こえないので、みんなが踊っている姿や雰囲気を楽しんでいると聞きました。何とか音を伝えたいと、肩を叩いてリズムを伝えたのですが、少しでも楽しんでもらえてよかったです。女性と男性の声の違いが分からないこともその時に初めて知りましたし、いい体験ができたと思っています」と自身の体験談を後輩たちの前で語った。

 

講義終了後の質疑応答の時間では、自身も独学でDJをしているという商経学部の1年生が大沢特命教授に質問を投げかけた。

 
 

<プロフィール>

大沢 伸一(おおさわ・しんいち)

1967年滋賀県生まれ。93年のデビュー以来、MONDO GROSSO、ソロ活動を通じて、
革新的な作品をリリースし続けている音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。リミックスを含むプロデュースワークで、BOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEX GOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手掛けるほか、広告音楽や空間音楽、サウンドドラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍している。2017年6月、14年ぶりとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。iTunesアルバム総合チャート1位、オリコンアルバムランキング8位、女優・タレントの満島ひかりが歌う『ラビリンス』のミュージックビデオが900万以上再生されるなど、音楽シーンの話題をさらった。2015年9月より、同学部の特命教授に就任。
 

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