高性能の車を売るにも、大切なのは「人」の力

――新入社員となって最初はどんな仕事だったのですか。

今井 担当したのは、GM(ゼネラルモーターズ)事業部でセールスマンを研修する業務でした。当時のヤナセは自動車を輸入し卸売・小売・修理する会社でしたが、その中でも輸入したGM車に関する商品情報を全国のセールスマンに伝えるという仕事です。
直営店ならまだしも販社、それもマーケットが小さい地域で、流通台数の少ないアメリカ車を扱うとなれば、セールスマンが見たことのない車を売ることになるケースが多い。ですから、社員研修で商品知識を伝えるために、トレーニング用のプレゼン資料を作って全国を飛び回っていました。
出張は1年に100日以上、47都道府県すべて出張しました。当時、入社後最短で優秀社員賞をいただいたことは私の自慢のひとつですが、あれはあまりの出張の多さに少しはご褒美をやらないと私がつぶれてしまうんじゃないかという会社の配慮だったのかもしれませんね(笑)。

 

――新入社員がベテランセールスマンを指導するわけですね。

今井 ええ。いわば車は食材で、セールスマンは料理人のようなもの。私が伝えた車の商品知識を、どのように料理して盛り付けお客様にお届けするかは、セールスマンの腕の見せどころです。売り方については、セールスマンたちにすべてお任せしていました。
車は高額ですが、リピーターが非常に多い商品です。セールスマンが販売したら、メカニックがメンテナンスサービスを行い、買い替えの時期を見越して再度セールスマンが営業をかける。それはさながらチームプレーです。
彼らに商品情報を伝え、教育する立場ではありましたが、彼らから学ぶことが多かったのも事実です。販売しているのがどんなに高性能の車だとしても、車とお客様の間に人が介在する以上、その人の特性が大きく影響します。いかに「人」の力の影響が大きいかを日々痛感させられていました。

 

労働組合委員長という立場で得た経験

――その後、労働組合へと移ったんですよね。

今井 GM事業部で6年半、1998年9月になって、5000人が所属する労働組合の役員になる話が回ってきました。会社の中でいろいろなことがどのようなプロセスで決まっているのか、そもそも会社が儲かっているのかいないのかなどもっと詳しく知りたいと思っていました。労働組合の活動についても気になっていましたし、元々興味を持ったことは何でも首を突っ込みたいタイプなんですよね。
労働組合の役員としてはおそらく最年少での選任だったと思いますが、会社と対峙しながらも、会社側の意図を理解しそれを組合員に伝える役割を担う立場です。それはある意味、会社に対する愛着や忠誠、理解度という意味で評価していただいたからだと思っています。

 
――実際に経験してみてどうだったのですか。

今井 書記長となって2年、副委員長を務めるころになると、会社の業績が悪化し、大リストラもやらなければいけない状況に陥りました。すべてはビジネスモデルの転換が遅れたのが原因でした。
ボーナスが出ない、住宅ローンが組めない、希望退職を募らなければならない。組合員は約5000人、その後ろにいる家族を考えれば10000人以上の生活がかかっています。その中で、会社を休職して組合役員となった職業組合役員として、組合員である社員のために何ができるか真剣に向き合いました。事業転換に伴う人員削減策として、組合と会社が希望退職の実施に合意しました。実施に伴い、違法な強要がないかどうか、応募した組合員全員と面談をしました。組合役員とはいえ30歳そこそこの私が、希望退職に応じられた50歳代の勤続40年以上の大先輩に、「自分の意志でお辞めになるのですか」とヒアリングするというのは、なかなか辛い仕事でした。
最終的には委員長まで務めましたが、会社の経営が最も苦しかった時期に組合で仕事をしたことは、いま振り返っても貴重な経験でした。

 

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