イタリア、フランス、計16か所を巡る15日間の旅――。今年の3月から4月にかけて、ヨーロッパひとり旅を経験した千葉商科大学サービス創造学部3年生の井上恭兵くん。彼は初海外旅行の場として、イタリア、フランスを選んだ。彼は果たしてどんな経験をし、どのような学びを得たのか。
イタリア、フランス16都市を巡る
今回旅に行った理由は、実は、特にありませんでした(笑)。なぜヨーロッパにしたのかというと、高校生のときにヨーロッパのグルメ旅行を題材にしたプレゼンをした経験があったから。3月から4月にかけての春休みを利用して、イタリア12か所、フランス4か所を15日間で巡りました。イタリアに7日半、フランスに7日半滞在して、かかった費用は約50万円。ツアーではなかったこともあって費用は結構かかってしまいましたが、何にも縛られることなく自由に動けるのは、個人旅行の一番の醍醐味だと思います。しっかり事前調査もしましたが、「とにかく自分の行きたいところに行こう」ということで、結果的には行き当たりばったりの旅になりました。ホテルも予約を取らずに、その日その日で自分で歩いて探しました。ですから、時にはなかなか宿が見つからず、10軒以上回ることもありました。
日本にはない文化
旅のテーマは3つ。「Hidden culture(隠れた文化)」「グローバルマインド」「トライ&エンジョイ」を掲げて旅をしてきました。
まず、行ったのがイタリア・ローマ。観光地に行くと知らないおじさんが近づいてきて、勝手に僕のカメラをいじって写真を撮ったり、馴れ馴れしく話しかけてきたりしました。すると今度はお金を要求してくる。わけもわからなかったけど、そのしつこさに負けて20ユーロ払ってしまいました。後から考えると失敗ですよね。
ナポリの街は、「ナポリを見てから死ね」という言葉があるくらい景色が美しいことで有名な地。ところが、実際に行ってみると街にはゴミがたくさん散らばっていました。こうした出来事ひとつとっても、百聞は一見にしかず。海外ならではの隠れた文化をはじめ、行ってみて体験して初めて知ることが多いと実感できました。
言葉の壁は気持ちで乗り越える
イタリアのトリノからフランスに鉄道を使って入ろうと思っていたのですが、直通で行ける電車がありませんでした。ですので、フランスにほど近いイタリアのピエモンテという村まで行って、歩こうと決めました。ところが実際には、ピエモンテからフランスまでは、約100キロ。歩くなんてとても無理だと悟った僕は、人生初のヒッチハイクに挑戦しました。
親指を立てて車が止まってくれるのを待ちましたが、なかなか止まらない。結局、20台くらい待ったでしょうか。1台の車がようやく止まってくれました。
僕を助けてくれたのは、イタリア人の中年女性でした。でも、彼女はイタリア語しかしゃべれません。僕自身、英語が堪能というわけではないのですが、その英語も通じません。それでも、僕の片言の英語とボディランゲージでコミュニケーションをとることができました。
僕は、この旅を通して、スペイン人、台湾人、中国人、ブラジル人、オーストラリア人、アメリカ人と、さまざまな国の人たちと会話をする機会がありましたが、片言の英語でも十分にコミュニケーションをとることができました。
外国人を前にすると、文法や形に従って丁寧に綺麗な英語で話さなければと思ってしまいがちですが、それよりも大事なのは「こうしたい」という気持ちを伝えること。単語がわからなくても、ボディランゲージを使う、相手の表情を見る、絵を描く……。気持ちを伝える手段はたくさんあります。五感をふんだんに使うことが大切だと感じました。
海外だからこそできた経験
フランスでは、贅沢に趣味を楽しむことができました。アルプス山脈の麓にあるシャモニーに向かい、大好きなスノーボードを体験したのです。この旅行は、リュックサックひとつに洋服3着を詰めただけの身軽な格好だったので、ウェアやボードは現地で借りました。リフト券と合わせて1万円くらいだったでしょうか。「俺ってば、アルプス山脈で滑ってる!」と舞い上がりましたね。あと、「フランス人って意外とスノボできる人少ないな」というのが感想でした(笑)。
それから、世界遺産のモンサンミシェルに行ったり、パリを訪れたりしました……。パリの凱旋門はテレビで見たまんまで、あまり感慨もなく(笑)。
それよりも、印象に残っているのが昼寝です(笑)。パリを訪れたのが火曜日で、ルーヴル美術館は休館日だったので、美術館前の噴水広場で、ベンチに寝転がって昼寝をしたんです。あんなにゆっくり時間が過ごせたのも、海外だったからこその経験なのではないかと思っています。
考え方も豊かになった今回の旅
ガイドブックに載っているものが必ずしもいいわけではありません。現地に行くと、自分が好きなものや新しい価値観に、自分自身気づかされました。
今回の旅はいろいろな人に出会い、新しい自分を発見することができました。現地では多くの人に親切にしてもらいました。「グラッツェ」「メルシー」「サンキュー」。何回もみんなに「ありがとう」と言いました。たとえば、探しているお店まで一緒に連れて行ってくれたり、宿に困っていると、ここなら空いているのではないかと情報を教えてくれたり。助け合いの精神があると感じました。僕も、日本で困っている外国人にはもちろん、日本人でも、積極的に声をかけようと思いました。
友人からブータンが面白いと勧められたので、今度はアジアに行ってみたいですね。世界一幸せな国ともいわれているようですが、彼らの価値観を自分で実際に体感したいと思います。海外に行っていろいろな景色や文化を知ることができたのは、自分にとっては大きな財産なりましたし、考え方も豊かになったと思います。
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サービス創造学部の1年生を対象に4クラス合同で行われた今回の講義。担当教員の中村聡宏専任講師は井上くんの話を通し、「2020年東京にオリンピック・パラリンピックがやってくる。日本人はおもてなしの精神に優れているという話が招致活動の際にも出ましたが、井上くんの話からも、我々にはこれからまだまだやるべきことがあると感じます。サービスを創造していく上で、人と人が尊重し合い心を通い合わせること、コミュニケーションが大事。皆さんもさまざまな経験をして、自分の引き出しを増やしてほしいと思います」と学生たちに訴えかけた。一方、西尾淳教授は、「昨今、若い人たちが海外旅行離れしている。井上くんは、実際現地に足を運んだことで、行かなければわからないことをたくさん経験した。皆さんもぜひできる限り、リアルで刺激的な体験を重ねてほしい」とエールを送った。
講義を終えた井上くんは、「今までも、プレゼンなど人前で話す機会はあったものの、舞台で一人だけで話すことはなかった。目の前に相手がいるので、どう思っているかが明確にわかりましたし、理解してもらうには、伝え方が大事だと気づかされました。人前で自分の気持ちを伝えることは難しかった」と振り返った。「いい経験をさせてくれた先生たちに感謝したいです。むしろ、僕が勉強させてもらった“俺のための授業”でしたね。体験したからこそ多くの学びがありましたし、人を変えようとする前に、まずは行動を起こして自分が変わることが大事だと感じました。」
さまざまな経験をした井上くん。残り2年足らずとなった大学生活で、さらにどのような成長を遂げるのか、今後に期待したい。