千葉商科大学サービス創造学部で留学生活を送るヤン・ロンさん。大学生にして、SNSで2万人以上のフォロワーをもつインフルエンサーでもある。中国人留学生から見た日本の魅力と課題、そして、今後彼が目指す道について聞く。
日本暮らしで驚いたこと
千葉商科大学サービス創造学部4年生のヤン・ロンさんが来日したのは2009年のことだった。
「私が生まれ育ったのは中国・福建省です。私の父の弟、いわゆる叔父が、ポーランドで地元の人々向けのスーパーを経営していたように、商売をするために海外へ出て行く人たちが多い土地柄でした。もちろん、私もグローバルな人材になりたいと思っていましたし、中でも親戚が住んでいた日本は元々身近に感じる場所でした。当時世界2位のGNPを誇っていたように、世界トップレベルの日本経済に興味があったことも来日の大きな理由のひとつです。
その一方で、日中問題がよくメディアなどでも取り沙汰されるように、反日感情を持つ中国人が多いのも事実でした。しかしながら、その点についても、私は自分自身の目で日本の現実を確かめてみたいと思っていました。
こうしたいくつかの理由から、日本で学びたいと考えるようになったのです」とヤンさんは語る。実際、ヤンさんが通った高校でいうと、40人のクラスであれば半分の20人は海外で仕事をするようになり、さらにその半分の10人が日本で働くという具合だった。
来日後通った東京・中野のイーストウエスト日本語学校では、韓国、台湾、タイ、インド、ロシア、アメリカなどの多国籍の学生たちが集い、楽しい日々を過ごしたという。日本に来てみて感じたことを聞くと「まず、東京に来て驚いたのは、人が多すぎるということです。そして国民が政治に対してとても無関心なことにも驚かされました」とヤンさんは笑う。その一方で、「日本はとてもいい国です。これまで私が接してきた日本人は、みな優しい人ばかりでした。マンガやアニメなど世界でも非常に人気が高い文化があることに加え、あらゆるものの利便性が高く、安心・安全で住みやすい土地だと思いました。日本人は時間をきっちり守りますし、仕事をしてみると仕事の割り振りや役割分担がうまく、ものごとを効率的に進めるのが上手だと感心させられることが多いです」と話すように、日本の良さも実感しているようである。
中国人留学生が思う日本人の特徴とは
2011年、ヤンさんは千葉商科大学サービス創造学部に入学する。この学部を選んだきっかけについて尋ねた。
「サービス創造学部を選んだのは、一言で言うと『面白そうだったから』です。私が入学する時点で3期生と非常に新しい学部だったのも魅力的でしたし、学問・企業・活動の3つから学ぶというのが、大変いいコンセプトだと思いました。すでに話したように、福建省の人間はビジネスすることを前提にした文化の中で育ちます。私は将来MBAをとりたいと思っていますが、この学部を見ていると、経営学や経済学を中心に次世代のサービスを創造・育成していくイメージがありましたし、実際にオープンキャンパスを訪問し先生と話してみて、すぐに入学することに決めました。」
入学後、自由な時間を確保することができたこともあり、居酒屋のキッチンやホール、ヤマト運輸で配送の仕分け、マクドナルド……など積極的にさまざまなアルバイトに挑戦した。そんな中、唯一苦手に思ったのはレジのアルバイトだそう。ヤンさんは「行列ができるとプレッシャーを感じてしまうんです」と苦笑する。
そんなヤンさんに、中国人として、日本や日本人に対して残念に感じる面はないかも尋ねてみた。
「日本人は表現が曖昧で、本心がわかりにくい面があると思います。また、友達の定義が中国人とは違う気がしますね。中国では友達になるとホームパーティなどをして、家族ぐるみの付き合いをしますが、私は自分のアルバイト先の店長がどんな家族構成なのかも知りません。日本人はあまり家庭やプライベートについて話したがらないものだと感じています。
それから、相手に気を遣わせる場面、私たちに思いやりを求められるケースも多いですよね。たとえば、お酒を飲むというのは普通に考えるとリラックスすべき場のはずなのに、日本の飲み会だと周囲にすごく気を遣わなければならないという面もあります」と話すヤンさん。さらに続けてこんな意外な答えも返ってきた。「日本語学校に通った時から思っていたのは、先生が優しすぎるというか親切すぎるということです。もちろんありがたいことなのですが、学生の相談に乗ってなんでも面倒を見てくれるので、かえって学生が成長できない面もあるかもしれないと感じました。」
なるほど、日本人ならどれも思い当たる節がある話ではないだろうか。
SNSとのかかわり、そして未来へ。
ヤンさんは現在、中国版ツイッター『新浪微博(ウェイボー)』で2万人(個人アカウントに2万人、管理する留学生コミュニティーに2万5千人)以上のフォロワーを抱える。
SNSにのめり込むきっかけは2011年2月、震災直前のことだった。ウェイボーの利用者は当時約1億人(現在は5億人)。はじめは日本や東京に住む中国人とつながるなど、単なるコミュニケーションツールとして利用していた。それが、2011年末にはフォロワー5000人を超えた。先行者利益に加え、発信するコンテンツが重要だと考え、毎日3〜5通継続して投稿した結果だった。何か具体的な戦略があったのかと聞くと、「フォロワーたちに有益な情報を提供するということを意識しました。美しい桜、ビアガーデン、花火大会など、季節ごとの情報や画像・動画を日本のWEBサイトからピックアップしては、中国に発信するように心がけていました」と明かす。
ヤンさんはさらに、オンラインでのつながりだけではなく、オフラインでも仲間たちとつながることを考えた。オンライン上で知り合ったフォロワーたちと30人程度に限定したイベントを重ねていったのである。
「実際に会ったことない人たちと本当の友達になりましょう、と呼びかけオフ会イベントを開きました。年間何百人という人たちと実際に会うことで、彼らが真の友達になっていきました。」
いつしか、フォロワーは2万人を超えていた。ソーシャルメディアを使っている仲間たちが、いろいろな形でヤンさんの想いを応援してくれるようになっていた。
facebookやtwitterも含めたSNSを駆使しながら、日本人ともコミュニケーションを深めていった。ソーシャルメディアで呼びかけた仲間たちとともに、岩手県宮古市と宮城県宮城郡七ヶ浜町へ2度にわたって被災地を訪問。また、ウェイボーで知り合った学芸大学の中国人留学生とともに都内の区民センターで、日中音大生による「復興支援チャリティーコンサート」を開催したところ、100名の集客にも成功した。
「SNSを通じて、被災地で行うイベントへの協力を呼びかけたところ、日本・中国合わせて約20万円の支援物資が集まりました。ドン・キホーテから文房具をご提供いただいたり、三菱鉛筆のウェイボー担当者から直接、鉛筆300本とボールペン600本のご支援をいただいたりもしました。中国人の中には物資は届けられないけど……と言って、お金を送ってくださった方もいました」というように、SNSを通じてさまざまな力が集まることを実感した。「私同様に、3〜5万人のフォロワーを持つパワーユーザーと言うべき友人も5人ほどできました。彼らと助け合い情報をシェアしあうと、驚くほど大きな力になります。仲間と協力しあうことで、社会に対して有意義な取り組みができることは何よりの喜びになりました」とヤンさんは言う。
さらに、これまでの活動をいかして、中国進出を考える日本企業がウェイボーへ加入する際のサポートも個人的に始めた。ただ、これを本業にするつもりは決してない。
「私は卒業後、ネットマーケティングの会社『株式会社メンバーズ』に就職することにしました。Webマネジメントセンターであるこの企業で、もっともっとノウハウを学びたいと思っています。」
その後の目標についても聞いた。
「最大の目標は、企業のネットマーケティングにおける課題を解決し、大きな成果を出せるマーケッターになること。膨大なデータを読み解き戦略を立てられるようになりたいと思っているので、いろいろと勉強をしているところです。そして近い将来、日系企業を中国で成功に導く架け橋となれるような仕事をしたいと思っています。」
そう答えるとヤンさんは自信に満ちた笑顔を見せた。