サービス創造フォーラム2017
2018年2月8日(木)、千葉商科大学主催の「サービス創造フォーラム2017」が開催された。このフォーラムは、同大学のサービス創造学部の公式サポーター企業やアライアンス企業を招き、異業種交流の機会として例年行われてきた。今年は、日本最大級のポータルサイトYahoo!JAPANを運営するヤフー株式会社の常務執行役員 コーポレートグループ長の本間浩輔氏が登壇。「働き方改革時代の“会社”と“働く人”」について考える」をテーマに、実例を交えながら語ってもらった。
働き方改革は果たして労働力を生むのか。
フォーラムは、第1部が本間氏による基調講演、そして同学部の今井重男学部長とのパネルディスカッション、第2部が懇親会という構成で行われた。
今回ゲストスピーカーとして登壇した本間氏は、ヤフー株式会社の人事・コーポレートの責任者であり、2018年4月、常務執行役員に就任。冒頭、本間氏は、「働き方改革について、かなり危険だと思いませんか」と集まった企業の方々に問いかけた。
「日本全体が働かない運動をしているように感じます。ITの世界にいますので、中国を中心とするアジアの人たちがものすごい勢いで追い上げてきている現状を知っていますし、あと5年、10年もするとアジアの国に抜かれてしまうと思います。働き方改革で労働力を生むのか、日本の国力を向上させることができるのか、という問いにかえていかねばならない」とこの現状を危惧する。
日本人の平均寿命は84歳にまで伸びた。60歳で定年を迎えても、少子高齢化の影響もあり、年金で優雅に暮らすことは厳しい時代だ。労働人口が減っていく現状を踏まえ、本間氏は「学生の皆さんは、労働人口が減るから企業に入るのは楽勝と思うかもしれませんが、そうではありません。日本の教育の中では“頑張れば報われる”と教え込みますが、逆説的に言うと、報われなければ頑張らなくなってしまう。成果が出にくい仕事をやらないというようになってしまう。僕はこの、“頑張ったら報われる”という考え方が、日本の働く人の関係と組織の関係をおかしくしているのではないかと感じています。努力の方向性を間違えないこと。これからの時代、それが重要になってくる」と語る。
- 基調講演を行ったヤフー株式会社 常務執行役員 コーポレートグループ長の本間浩輔氏。新卒の一括採用について、「企業経営において一括で新卒をとらねばならない科学的な理由はありません。ですから、わが社では一括採用をやめました。中途採用の人の方が自分のキャリアをしっかり考えているように思います」と話す。
時代はキャリア・サバイバル
アメリカの組織心理学者エドガー・H・シャインが提唱したキャリア理論に「キャリア・アンカー」という概念がある。キャリアを選択する際に自身が犠牲にできない価値観などをさし、船の“錨”(アンカー:Anchor)にたとえて、職業人生のよりどころとしてキャリア・アンカーと称されている。これは一度形成されると変化しにくく、生涯にわたってその人の重要な意思決定に影響を与え続けるというがが、本間氏はそれよりも「キャリア・サバイバル」という言葉の方がしっくりくると話す。
「職業に関して適正検査などを行いますが、なかなか実際にはわからないものです。人生100年。仕事をしながらいろいろな経験をして、それを学びに変えて自分のキャリアをサバイブ(生き残る)していく。今後50年、60年と仕事をしていく上で、サバイブための力をどのようにつけていくのか、という考え方を持った方がいいいと思います。」
本間氏は大学卒業後、野村総合研究所に入社し、その後多くのキャリアを積んできた。今、大学を卒業してから25年経ち、感じることは、「大学までどんなことをしてきたかは関係ないし、誰も大学名を気にしない。それよりも社会人になってから、どのように学び続けるかの方が重要で、それこそが職業人生をサバイブする唯一の方法」だと言う。
では本間氏のいう学びとは何か。「かつて私が物心ついた頃、企業の定年は55歳でしたが、今は70歳くらいまで働かないといけない。リンダ・グラットン氏(英国のロンドン・ビジネススクール教授。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の著者)は、どんな方法でもいいから、80歳までお金を稼ぐ能力をつけなさいと言っています。そのためには、学び続けなければならない。今から60年前、こんな2018年になっていると予想することはできなかったでしょう。同じように、私たちは60年後を予想することはできません。何かひとつのことにしがみつくのではなく、あらゆる興味に対し学び続けることが大事です。そしていい学びをするためのいい仲間が必要です。これからの時代、そうした能力のある人がサバイブできると思っています。」
- パネルディスカッションでは、本間氏とサービス創造学部の今井重男学部長との対談。本間氏は、「理論を学ぶことは未来を見るために必要なこと。“巨人の肩の上”という言葉がありますが、日本が国として豊かになったり勝っていったりするためには、コミュニティとしての大学と働く人たちの関係値がもっと強くなるべきだと思っています」と大学とのかかわりについても触れた。
考える時間を買うため、学歴ロンダリング
続いて、同学部の中村聡宏専任講師のコーディネートのもと行われた本間氏と今井学部長のパネルディスカッションは、基調講演を受けて企業の方や学生たちから寄せられた多くの質問に答える形で行われた。
本間氏の具体的な学びの方法についての問いもあった。「僕は人生に迷ったら大学院に行くんです。結果的に4つの大学院に行きました(笑)。専門家がアカデミックなセオリーを話してくれるのはもちろん、自分自身、強制的に大量の本を読まねばならない。つまりそれは考える時間を買いに行くということ。自分の時間をどう戦略的に抑えてそこでどんな学びをするかということが重要なんです。大学院で、学歴ロンダリングもできますしね」という本間氏の回答には、会場から笑い声も漏れるなど和やかな雰囲気に包まれた。
さらに、「いい仲間のつくり方」についても質問があった。本間氏は「難しい質問ですが、いい仲間は本当に力になってくれるし、お金では買えない宝です。心理学の中でも、自分が仲間のことを好きにならないと、仲間も自分のことを好きになってくれないと言われます。ですから、ぜひギブ&テイクではなく、テイク&テイクの気持ちで仲間を大切にしてほしい」と話すと、今井学部長は、「社会に出ると友人逓減の法則があると言います。逆にビジネスパートナーが増えていく。ですから、お互い傷を舐め合う仲間ではなく、間違っていることは指摘し、お互い本音で話し合える仲間という意味で、大学時代の友人は貴重だと思います」と持論を述べた。
また、学生からは、「インターンや説明会にリクルートスーツを着ていくことが理解できない。それはなぜか」という質問も。本間氏は、「その通りですよね」と前置きした上で、「でも、それを言い訳にして動かない理由にしないでほしい。学生のうちに起業をするのもいいこと。大きく儲けなくてもいいので、2~3年でこんな会社をつくって、これくらいの利益が儲かっていると言ったら、どこの企業も欲しがるのではないでしょうか。僕が学生の時代は違ったかもしれませんが、今の時代はむしろ歓迎されると思います」と学生たちを鼓舞した。
- 今井学部長は、「今日は学生の皆さんにとっても、得るものがあったと思います。よく面白い授業をしてくれという学生がいますが、教員が話す基準は面白さ以上に、絶対に知っていた方がいいかどうかだと理解してほしい」と学生たちにメッセージを送った。
プロジェクト大賞はジェフ千葉・プロジェクト
第2部の懇親会の中で、プロジェクト活動の2017年度の大賞の発表も行われた。このプロジェクト活動とは、同学部の公式サポーター企業などの協力のもと、学生たち自らが企画を実践してさまざまな学びを得るカリキュラムで、2017年度は計9のプロジェクトが活動。フォーラム開催前には会場前で各プロジェクトメンバーがポスターセッションを行い、教員や学生、企業の方たちへ活動内容を説明した。そレを受けて行われた審査員投票をもとに、今年度のプロジェクト大賞の団体賞と、MIP(Most Impressive Project/もっとも印象に残る活動)が決定し、懇親会で授賞式が行われた。
今年度のプロジェクト大賞に選ばれたのは、「ジェフ千葉・プロジェクト」だった。サッカーに馴染みのない人もスタジアムに連れて行き楽しんでもらおうとバスツアーを企画した。同学部の公式サポーター企業であるジェフユナイテッドやエイチ・アイ・エスと連携した企画運営のほか、協賛寄付金という形で地元企業からのスポンサードを集めるという、これまでにない新しい取り組みが評価された。そして学生間投票によるMIPは、夏と年末にパーティを企画したパーティ・プロジェクトとなった。
ジェフ千葉・プロジェクトの塚田華衣さん(サービス創造学部3年)は、「まさか取れるとは思っていなくてびっくりしました。広告や営業も他のプロジェクトにはないことをたくさんやれたと自負しています」と話すと、布村沙耶さん(同3年)は「まだ3年目のプロジェクト。経験のないことへの挑戦は、教えてくれる先輩もいないため手探りでの活動でしたが、0から1にする大変さを通してさまざまなことを学びました」と顔をほころばせた。
また、MIPのパーティ・プロジェクトのリーダー、目谷真之介くん(同3年)はジェフ千葉・プロジェクトのことを称賛しつつも、「1年生の時初めてイエローパーティに参加したとき、大学生にこんなことができるんだと感銘を受けました。自分もこのプロジェクトに入ってこれ以上のものをつくり上げたいと心に決めました。今年はパーティ・プロジェクトのリーダーを任せられるようになり、このような賞を頂けて本当に嬉しく思います。教職員や企業の方にはまだまだと思われてしまう部分もあったかと思いますが、同じ学生からこのような評価を受けたということは、自分が最初に感じた気持ちを持ってもらえたのかなと思っています」と喜びを表した。
- サービス創造学部の吉田優治教授は、「今日は本間さんのお話を聞いて大学教員もまた働き方改革をし、素敵な学生をたくさん育てたいと思います」と挨拶。企業の方たちと一緒に「サービス!」「創造!」で乾杯の音頭をとった。
- MIPを受賞したパーティ・プロジェクト。リーダーの目谷真之介くんは、「プロジェクト大賞を狙っていたので悔しいですが、本当にメンバーたち全員を表彰したいくらい頑張ってくれたと思っています」とコメントした。