株式会社がちゆん 代表取締役兼CEO 国仲瞬
今回、千葉商科大学の講義「ユニバーシティー・アワー」に登壇した国仲瞬氏は、現在、琉球大学教育学部に在籍する大学生であり、学生起業家だ。教員になるために勉学に励んでいた彼が、なぜ起業を決意したのか。創業してわずか2年で会社を急成長させたビジネスモデルとは何か。そして、彼が目指しているものとは。その想いを熱く語ってくれた。
ある修学旅行生との出会いが起業のきっかけ
国語教師を目標にしていた国仲氏の人生を変えたきっかけは、沖縄県糸満市摩文仁の「平和の礎」から見える崖を前に、「あの崖は戦争を諦めた奴が死んでいったところだろう」と笑いながら話していた修学旅行生に出会ったことだという。
「どうしたら彼らに沖縄で何があったのかを知ってもらえるのか、もっと戦争について自分事として捉えてもらえるのかと考えるようになったんです。」
国仲さんは、当時所属していた琉球大学のディスカッションサークルの仲間と話し合い、平成26年5月、大学生の身ながら、沖縄に修学旅行に来る生徒達のための平和教育プログラムを開発、提供する会社を興すことを決意。社名は、「気軽におしゃべりしよう」という意味の沖縄言葉「ゆんたく」に、本気の「がち」をかけ合わせ、ここに「株式会社がちゆん」が誕生した。
数日後、早速ある旅行会社からオファーが舞い込んだ。その旅行会社が「がちゆん」の平和学習プログラムを旅程に組み込んで修学旅行を販売したところ、一気に数件の受注を決めたという。業界内でその噂が広まり、あっという間にどの旅行会社の修学旅行プランにも「がちゆん」の平和教育プログラムが採用されるようになった。
こうして、資本金5万円でスタートした会社は、創業から2年あまりで56校、1万1201名の修学旅行生に平和学習プログラムを提供し、年商数千万円の会社に急成長した。今年は150校の修学旅行生を受け入れる予定だという。
なぜ、「がちゆん」の平和教育プログラムが選ばれたのか?
一般的に沖縄での修学旅行には、旅程に戦跡巡りや体験者の講話といった、何らかの平和教育が組み込まれている。しかし、生徒達がそれを「暗い、怖い、つまらない」と感じていたのも残念ながら事実だった。そこを改善しようと国仲氏は考えた。
「従来の平和教育は、生徒達が受け身になることが多かったため、飽きてしまうようでした。そこで、年齢の近い沖縄の高校・大学生とのディスカッションを取り入れて、修学旅行生が主体的に、自分事として平和を考えることができるプログラムを考案したんです。」
また、見せ方も工夫した。修学旅行と『非日常』という点で共通する結婚式を参考に、目を引くようなオープニングや動画、音と光を用いた演出など、エンターテインメントの要素を取り入れた。同時に密度の濃い内容にするため、沖縄の学校の先生にもプログラム開発に参加してもらい、経済や文化といった各専門家から学習面のアドバイスも受けるなど、さまざまな角度から磨き上げ、従来とは一線を画したプログラムに仕上がった。
「修学旅行のプログラムを売るビジネスでは、決定権を持つ旅行代理店や学校の先生に気に入られることが成功の早道ですが、僕らは直接サービスを受ける生徒達が満足するものをつくることに特に注力しました。」
『株式会社』を選択した国仲氏の想い
今後の目標は、さらに規模を拡大させた上でリピート率を上げることだと話す国仲氏。「今年2月には香港の修学旅行生を受け入れました。アジアの修学旅行を沖縄に誘致し、彼らのニーズに合った学習プログラムの開発もしていきたい。また10月には、ベトナムで事業を発足させ、現地で平和プログラムを提供する予定です。」
国仲氏が「がちゆん」を非営利組織のNPO法人ではなく、「株式会社」にしたことには、強い思いがあってのことだ。
「利益を上げることこそが質の向上につながり、一過性ではなく永続的な取り組みになると信じています。僕は沖縄を、平和を語ることで生計を立てている島にしたい。僕らの会社がその中心になって、沖縄を自分たちの目指す社会に変えていきたいんです。」
軍需産業に対抗する、平和産業の島・沖縄−−。さわやかな語り口の中に秘められた熱い思いを誰もが感じた瞬間であった。
- 講演の中で、「修学旅行生の親にも何かアプローチしたい」と話していた国仲氏に対し、具体的な説明を求める、サービス創造学部2年の廣瀬玲くん(中央)。国仲氏は、「修学旅行のお金を出しているにもかかわらず、サービスの対象から外れてしまう生徒の保護者には、たとえば、僕たちのプログラムで学んでいる子どもたちの画像を提供するといったサービスを将来的にできたらと考えています」と回答。
- 最後に、国仲氏から学生に向けて、「学生起業家の存在を知るまで、僕は教師になることしか考えていなかった。皆さんも、いろいろなことを知って人生の選択肢を増やしてください。それから、自分の中に生まれた違和感を大切にしてください。それが迷った時の軸になるはずです」とのエールが送られた。