群馬県立桐生南高校で2014年度より行われている、千葉商科大学サービス創造学部との共同企画シリーズ「サービス創造熱血講座」。本講座は、キャリア教育の一環として、後輩たちが未来を創造するきっかけにしてほしい、と桐生南高校野球部時代の先輩・後輩であり、現在は千葉商科大学サービス創造学部でともに特命教授を務める佐瀬守男氏(株式会社ホットランド代表取締役)と荒木重雄氏(株式会社NPBエンタープライズ執行役員事業担当)の提案をきっかけに、実現したものである。2015年7月21日に行われたのは、シンガーソングライターの近藤薫氏が作詞・作曲を手がけた『もうひとりの君』のプロモーションに関するプレゼン大会。大学生、高校生から出た若者ならではのアイデアとは?
『もうひとりの君』を通じ、リアルビジネスを学ぶ
『もうひとりの君』とは、昨年度、「熱血講座」の講師のひとりとして登壇したシンガーソングライターの近藤薫氏が、高校生たちを前に桐生南高校のために書き下ろしたオリジナルソング。千葉商科大学サービス創造学部では、近藤氏とともに同曲の原盤権を共同所有。楽曲プロモーションを通して、同学部の学生たちと桐生南高校の高校生たちのリアルビジネスを学ぶ機会を創出していく狙いがある。
当日、桐生南高校からは、ボランティア活動を行うJRC部、吹奏楽部、生徒会の計3組、同大学サービス創造学部からは、田中そのかさん(同2年)、平井滋己くん(同1年)、近藤将司くん(同1年)の3人が登壇し、500人近い高校生たちを前にプレゼンを行った。
JRC部は手話ソングで「勇気を与えたい」
最初に発表を行ったのは、JRC部。JRCとは、Junior Red Cross(青少年赤十字)の略で、さまざまなボランティア活動を行っているクラブ活動である。部長の荒川光希くん(桐生南高校3年)をはじめ、大澤瑞穂さん(同2年)、金子理歩さん(同2年)、鶴岡郁美さん(同2年)の4人は、「歌詞を通じて色々な人と思いをつなげ、曲を広める」をコンセプトに掲げた。
「たとえば合唱動画をつくる、エコキャップで文字をつくり、パラパラ動画として配信する、絵本にする、新聞やラジオのメディアを使うなど……さまざまな意見が出ましたが、最終的に、手話ソングを提案することに決めました。手話ソングだったら、耳の不自由な人、目の不自由な人にも届けられるので幅が広がると思ったからです」と企画意図を説明。また、「頑張ってきて、でも無理をしないで」という歌詞は多くの人に勇気を与えられると考え、JRCで交流している岩手県立高田高校の生徒たちをはじめ、同校の受験を検討している中学生の前でも披露したいと述べた。
高校生ならではのアイデアも!?
吹奏楽部からは、石川皓太くん(同2年)が発表。「高校生であるぼくたちの合唱で、もうひとりの君を広めよう!」をテーマに掲げ、さまざまな合唱の魅力を挙げた。まずは、学内の学生たちで、その後、動画サイトやSNSを使いって市内から全国へと拡散していき、『もうひとりの君』の合唱コンクールを行うというアイデアだ。
また、生徒会総務からは、副会長の齋藤玲也くん(同2年)が説明。『もうひとりの君』を日本中に広めるにあたって、「自分たちで歌おう」「ギターで弾き語りをする」「ポスター、チラシなどを制作する」「テレビ、ラジオなどを使って全国に宣伝していく」「学校近くのコンビニで曲を流してもらう」といったアイデアを提案。「広めるには、色々な人の協力が必要になります。歌詞の中に『間違えてもいい!』とあったように、色々な方法を模索していきたい」と語った。
「親から子への応援歌にしたい」
一方、千葉商科大学サービス創造学部の3人のうちのトップバッターを務めたサービス創造学部2年の田中さんは、この歌を「親から子への応援歌にしたい」と提案した。「私が高校を卒業した時に、『大学生になっても頑張ってね。ひとりで抱え込まずに無理しないでね』という言葉を母親からもらいました。近藤さんの歌にある『頑張ってね、無理はしないでね』という歌詞が、私の体験と共通するものだったから」と、自身の体験談も披露した。
プロモーションのアイデアは、「親から子への愛のカード」というもの。カードにはメッセージ欄が設けられているほか、ついているQRコードをスキャンすると『もうひとりの君』が聞くことができるというシステムだ。桐生南高校、千葉商科大学の学生たちの親に配布したり、地域メディアにリリースしたりして、話題づくりを行うという。また、「親から子へ、子も親になったら、またその子に伝えていくといった、この曲がそういう存在になっていってほしい」と締めくくった。
「歌詞の力で、みんなの救いに」
次に登場したのは、3ヵ月前まで高校生だった平井くん。「歌には力がある。『もうひとりの君』にもそういう力が秘められていると思います」と力強い語り口で話し始めた。「歌詞を一人ひとりに伝えられたら、きっとそれはみんなの支えになるはず」と、①読み込むと歌が聞けるQRコードをさまざまな場所で配ったり、貼ったりして広めていく、②SNSを使って人とつながる場所をつくり、自分はひとりではないということを認識する特設サイトをつくる、という企画を提案した。これらは、千葉商科大学や桐生南高校の有志のメンバーによって運営、曲のダウンロードを有料化し、収益金はサイト運営などの維持費として利用するという。「この曲を聴いて、ひとりでも多くの人の救いになればいいと考えている」と話した。
市内8校を対象とした「合唱コンクールを」
最後に登場した近藤くんは、高校時代にクラスに一体感が生まれたという自身の体験をもとに、合唱コンクールに注目した。高校生たちからも同じ合唱コンクールのアイデアが出ていたが、近藤くんのそれは少し違ったアプローチだ。
まずは、桐生市の高校に通う6,500人の学生たちが、一度は耳にしたことがある曲にすべく、近藤氏の生ライブを開催。さらに、桐生南高校の学内でコンテストを行うほか、桐生南高校を含む市内の全8校を対象にコンクールを行う。合唱コンクールの特設サイトでは、練習風景やコンクールの様子を動画で配信し、高校生たちの思い出づくりにしようという狙いもある。「いきなり全国に広めるのではなく、人から人へとじわりじわりと浸透したらいい」と思いを語った。
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サービス創造学部の吉田優治学部長は、「皆さんがこれから進学するにせよ、就職するにせよ、ひとつのものを社会に伝える時に、選択肢をたくさんもっていることが大事です。決まったレールの上を走るなんてつまらない。一人ひとり、100、200の選択肢を自分の前に掲げて、実行することがキャリアにつながっていくのです」と、学生たちにエールを送った。
一方、プレゼンを終えて、学生たちはどのような思いを持ったのか。
田中そのかさん(サービス創造学部2年)
「今日、高校生たちの前でプレゼンをしたことで、私たちが彼らたちに伝えられることはまだまだあると思いました。たとえば、高校生は企業の方のお話を聞く機会も少ないと思いますので、私たちがそういう方たちの活動についても伝えていければという思いが強まりました。」
平井滋己くん(サービス創造学部1年)
「大勢の人の前でのプレゼンは慣れていなかったため、緊張してしまいました。また直前まで手直しをしたり、ハプニングがあったりして、思うようにいかなかった面もありましたが、自分のアイデアを皆さんに聞いてもらえるのは心地よく感じました。高校生の発表を聞き、自分の高校生活を思い出すとともに、桐生南高校の高校生たちはすごいなと感心しました。これをきっかけに、桐生南高校と千葉商科大学で何かしていければいいなと思います。」
近藤将司くん(サービス創造学部1年)
「準備不足が多くあり、発表するまで不安でいっぱいでした。しかし、高校生から、拍手や反応があったのはよかったと思いましたし、終わった後に先生方から『よかった』といわれて、ほっとしました。この発表の場を通じて、改めてしっかり自分の伝えたいことを伝えることが大事だと認識しましたし、非常に学びのあるひと時でした。」
大澤瑞穂さん(桐生南高校2年)
「今日みたいに自分たちの意見を聞いてもらえる場があると、さらに頑張れると思いました。」
齋藤玲也くん(桐生南高校2年)
「今回だけではもったいないので、全校でアンケートをとって発表するといったこともできればいいと思いました。今までの『熱血講座』は受身でしたが、今回のように自分たちが発表する場が設けられたのは嬉しかったです。」
2014年から始まった熱血講座も6回目。こうしたプレゼン大会は初めてだったが、活発な意見交換ができる場になり、高校生、大学生両方から喜びの声を聞くことができた。
もうひとりの君 詞・曲/近藤薫
ある朝 目覚めたら
もうひとりの自分が立っていて
「起きようよ」「まだ寝てたいよ」
そんな会話を繰り返してる
未来はひとつじゃない
でもたくさんあるわけじゃない
だからよく見てよ 間違えてもいい
自分の瞳(め)で選んでいこう
丘の上に埋めた種に
また花がひとつ 咲いたよ 咲いたよ
「頑張ってきて」「でも無理はしないで」
そう もうひとりの君に伝えて
(間奏)
丘の上に埋めた種に
また花がひとつ 咲いたよ 咲いたよ
「頑張ってきて」「でも無理はしないで」
そう もうひとりの君に
丘の上に埋めた種に
また花がひとつ 咲いたよ 咲いたよ
「頑張ってきて」「でも無理はしないで」
そう もうひとりの君に伝えて
そう もうひとりの君も君だよ
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