2015年1月6日、群馬県立桐生南高校で、千葉商科大学サービス創造学部との共同企画による4回シリーズ「サービス創造熱血講座」第3回が行われた。本講座は、キャリア教育の一環として、後輩たちが未来を創造するきっかけにしてほしい、と桐生南高校野球部時代の先輩・後輩であり、現在は千葉商科大学サービス創造学部でともに特命教授を務める佐瀬守男氏と荒木重雄氏の提案をきっかけに実現したものだ。今回のテーマ「映画を創る」の講師を務めたのは地元・桐生出身の映画監督、草野翔吾氏。新進気鋭の熱血映画監督が送る高校生へのメッセージとは。

 

3回目となったサービス創造熱血講座。冬の体育館が学生たちの熱気で包まれる。

 


感性を知識で裏付ける

映画監督って、どんな仕事だと思いますか。「よーい、スタート!」と声をかけ、「OK!」とか「NG!」とか言う人、と思いますか? ええ、実際、そういう仕事だと思います(笑)。
学生時代に撮った『Mogera Wogura』という映画では、大杉漣さんに出演していただきました。尊敬する俳優さんにでていただけることになって、嬉しい反面「なめられちゃいけない」って気持ちも強くあって、最初の撮影で意味もなくOKを出さず何テイクも重ねたりしました。すると大杉さんからこんな言葉をかけられました。「プロの俳優でも褒められたいものなんです」って。その言葉から僕は多くのことを学びました。
僕自身、芝居や演技そのもののプロではない。でも、どのような映像を撮りたいかという視点から、役者さんの演技に対してOKかNGかを判断しなくてはいけないのです。
そして、OKなら心の底から「OK!」と言い、NGならその理由を的確に伝えなければいけない。理由もなく頭ごなしに否定する先生とかいやですよね?「OK」は自分の感性で「良いものは良い!」と伝えられれば良いのですが、「NG」を出すには感性に加えて、それを裏付ける知識が必要だと思うんです。
 
みなさん、僕が歩いていて楽そうに見えるのはどちらですか? みなさんから見て、左から右へ向かって歩くのが楽に見えますか? それとも逆が楽に見える人?
(……と、舞台を左右に歩いてみせて学生たちに挙手させる) 
ここまでは感性の話です。正解はありません……が、やはり右から左に歩く方が楽に見えるという人が多かったですね。
で、ここからが知識の話です。芸能の世界では、舞台に向かって右側を「上手(かみて)」、左側を「下手(しもて)」と呼びます。これは、人間の心臓が左にあるがゆえ、自然と左に重心が下がって、反対に右側が高く感じるからだと言われています。なので、右から左へ、上手から下手へ向かって歩くほうがゆるやかな坂を下っているように楽に見える印象を受けるんです。
逆に、下手から上手へ向かうと、少し上り坂のように、何かに挑んでいるような印象を受ける。実際、「スーパーマリオブラザーズ」に代表されるアクション型のテレビゲームで、左から右へスクロールするものが多いのも、こうした心理が影響していると言えます。
これが感性を知識で裏付けるということです。
 

『からっぽ』など、草野翔吾監督の代表作の一部を鑑賞する。


受験勉強も捨てたもんじゃない

そもそも僕は、あまり勉強をする高校生ではありませんでした。とはいっても、テストの点が悪かったわけではありません。
これは今だから言える話ですが、赤点では困るからと、カンニングペーパーを作ったりもしました。でも実際には、「カンニングペーパーを作る」という準備をしている間に、必要なことは覚えてしまい、結局カンニングペーパーなんて使わないんですね。また、カンニングをするのであれば、先生には絶対に見つからないような、新しいカンニング方法を発明して欲しい。何かを作る仕事をしたいなら、意外とその方がテスト勉強より役に立つかもしれません。もちろん、「カンニングをしろ」と言っているわけではありませんよ(笑)。
 
母親からの「大学は遊びに行く所だから絶対行った方がいい」というススメもあり、大学の受験勉強はちゃんとやりました。毎日図書館に通い詰め、1日12、3時間にもおよぶ猛勉強をしたものです。受験勉強を始めたのが遅かったこともあって自分のレベルがわからなかったので、親に頼んで10以上の大学を受験させてもらいましたが、幸運にもすべて合格することができ、結局模試ではE判定だった早稲田大学社会学部に進学することにしました。
受験勉強は、僕の人生の中で「初めてした努力」だと言って良かったでしょう。勉強した分だけ結果に跳ね返る、つまり「正当に評価してもらえる」のが受験だとも感じました。
社会に出たら、上司やお客さんの機嫌ひとつで努力が水の泡になることなんて多々あります。いくら努力したって無駄になることがいっぱいある。もしかしたら「努力が正当に評価される」のって、大学受験が最後なのかもしれないな、と思うんです。そういう意味でも大学受験を経験してみることをオススメします。「大学は遊びに行くところ」というのも間違いじゃなかったですし(笑)。
 

軽妙なトークで学生たちの笑いを誘う草野監督。


映画監督になった理由

昔から映画が好きだったわけじゃなかったですし、なにか明確にやりたいことがあった高校生ではありませんでした。だから、大学在学中に「やりたいことを見つけなきゃ」という焦りがありました。そんな時にたまたま、映画サークルの先輩たちが制作した映画を見て、「凄いな」と思い、自分でもやってみることにしました。
自分で制作するとなるととても難しいことだと思ったし、実際決して先輩のようにはうまくできませんでした。それでも、僕が創ったものを褒めてもらえたのがとても嬉しかったのを覚えています。映画は「試しに1本……」くらいの感じだったのですが、ほかに特にやりたいこともなかったし、別のやりたいことを見つけるのが面倒にも感じて……。「とにかくこれだけはやめないで続けよう」と最初に決めてしまいました。実はそれが今、映画監督をやっている理由です。
 
映画監督になるために、資格は必要ありません。自称・映画監督にはすぐになれます。誰でもなれるんです。ですから、なることが難しい職業ではありません。
でも、続けることは難しい。作品を面白いと思ってもらえなければご飯を食べるための「仕事」としては続けていくことができないのです。
僕は「映画を続ける」と決めてしまったから、やめるわけにはいきません。まずは「できる」と言ってしまって「後からできるようにしよう」と考えたのも、受験で努力が実るという体験があったからなのかもしれません。
かといって、実際、将来のことを考えれば怖くなって挑戦できなくなる。だから、将来のことを考えるのはやめました。大学時代に、教員免許を取るという選択肢も考えましたが、この先つらくなった時、教員になるという道に流れる、逃げることを選んでしまうかもしれないという不安も覚えました。
僕にとって、映画監督になるということは、「夢」ではなく「目標」でした。その目標に対して、保険をかけることをやめたのです。
 

熱を帯びる草野監督の一言一言に、学生たちも熱心に耳を傾ける。


選択肢を削ってしまうのも一つの手

やりたいことがなかなか見つからない人もいるでしょう。それでいいと思います。やりたいことが見つからないなら、逆にやりたくないことを考えてみるといいんじゃないかと思います。
「四十にして惑わず」などといいますが、年をとると迷わなくなるのは選択肢がなくなるからなんじゃないの?と思ったりもします。
選択肢が多いからこそ、迷ってしまう。迷うのは悪いことじゃないけど、ずっと迷ってるくらいなら、自分から選択肢を削ってしまうのも一つの手です。そうすれば自ずと、自分がやりたいことが絞られてくるはずです。どうせ選んだって、そこで新たな迷いは生まれるんだし(笑)。
 
「夢は見るものじゃない、叶えるものだ」っていうセリフ、よく聞きますよね。でもこんなことを言える人は、「夢を叶えた人」だけだと思うんです。みなさんの周りに、「夢を持て」「やりたいことを探せ」って言う先生も多いと思いますが、そもそも僕はその点に懐疑的だったりもします。「夢が叶う」人は決して多くありません。ここにいらっしゃる先生の中にも、「夢をあきらめて教師になった」という方がいるかもしれませんね。いかがですか?(笑)
でも、それを否定するわけではありません。だったら、夢の上手なあきらめ方を教えてくれる先生がいてもいいのではないか、と思うんです。
 
映画の用語に「伏線」というのがあります。「つまらない勉強」も「諦めた夢」も、その中で得た知識や経験が後に伏線として回収されていくんじゃないかと僕は思っています。その伏線を回収する、関係のないもの同士を結びつける力こそが、一番大事な感性なのではないかと思います。
 

今回も千葉商科大学サービス創造学部・吉田優治学部長がコーディネーターを務めた。

 
 

<プロフィール>

草野 翔吾(くさの・しょうご)

映画監督。
1984年生まれ、早稲田大学社会科学部卒業。大杉漣や麿赤兒らが脚本を読んで出演を快諾した『Mogera Wogura』が学生映画にも関わらず一般劇場で公開。長編映画『からっぽ』は、第4回沖縄国際映画祭、第27回高崎映画祭にて新人監督部門に選出。海外映画祭でも上映され注目を集めた。また、有村架純主演の短編ドラマや、THE BAWDIESのMVなど、映画以外にも精力的な活動をする地元・桐生出身の注目若手映画監督。

 

※関連記事
強い意志と諦めない気持ち。/荒木重雄
自分の可能性を広げる努力を。/村山哲二

 

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サービス創造熱血講座 これまでの開催内容と今後の予定
 

<第1回>11月28日(金)「スポーツビジネスを創る(1)」
講師:荒木 重雄氏
千葉商科大学サービス創造学部特命教授。日本アイ・ビー・エム株式会社、ティー・システムズジャパン株式会社ドイツテレコムグループの代表取締役を経て、2005年に千葉ロッテマリーンズに企画広報部長に就任。事業部長、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事。球団退団後は株式会社スポーツマーケティングラボラトリーを設立。2013年4月、一般社団法人日本野球機構(NPB) 特別参与(侍ジャパン事業戦略担当)。2014年11月、NPBとプロ野球12球団による初の共同事業会社、株式会社NPBエンタープライズの設立に伴い執行役員 事業担当に就任。同時に株式会社ホットランドの取締役も務める。
 

<第2回>2014年12月22日(月)「スポーツビジネスを創る(2)」 
講師:村山 哲二氏
1964年生まれ。1988年、BMW新潟ディーラーに入社。セールスマンを経て、1998年に株式会社電通東日本に入社。サッカーのアルビレックス新潟の発足時より、その運営プロモーションに携わる。2006年に同社を退職し、同年、株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティングを設立、代表取締役に就任。翌年、地域のスポーツ活性化を目的として、日本で2番目となる野球の独立リーグ「ベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ)」を立ち上げる。設立当初は、4チームだったが、2015年には8球団で運営する。
 

<第4回>2015年2月26日(木)「音楽を創る」 
講師:近藤 薫氏
1999年、ロックバンド「スィートショップ」のボーカリストとしてメジャーデビュー。2004年よりソロ活動。現在はLive活動を全国で展開しながら、ドラマやアニメの主題歌、人気アイドルグループなど幅広いアーティストに楽曲提供するなど、数々のヒット曲を生み出している。