2014年11月28日、群馬県立桐生南高校で、千葉商科大学サービス創造学部との共同企画による4回シリーズ「サービス創造熱血講座」が始まった。本講座は、桐生南高校野球部時代の先輩・後輩であり、現在は千葉商科大学サービス創造学部でともに特命教授を務める佐瀬守男氏(株式会社ホットランド代表取締役)と、荒木氏の提案をきっかけに実現したもの。キャリア教育の一環として、後輩たちが未来を創造するきっかけにしてほしいというのが狙いだ。講師陣のトップバッターを務めたのは荒木氏でテーマは「スポーツビジネスを創る」だ。球界でさまざまな革命を起こしてきた男が語る「野球×ビジネス」とは。

 

桐生南高校の鈴木信弘校長(左)と、荒木重雄氏(中央)。
吉田優治サービス創造学部長(右)がコーディネーターを務めた。

 


高校時代の経験が自身の根幹に

私が野球を始めたのは3歳の頃。高校でも野球部に所属していましたが、2年生の時に肘を壊しました。野球を辞めるか否か悩んでいる私を再び野球に連れ戻してくれたのが、ひとつ上の先輩である佐瀬守男氏でした。彼のおかげで自分を奮い立たせ、追い込んで野球一筋で頑張ることができました。
3年生の夏、前橋工業高校の当時1年生だった渡辺久信投手(後に西武ライオンズ入団、前西武ライオンズ監督)と対戦。彼の剛速球を目の当たりにした私は、プロのレベルとはこういうものなのかと痛感しました。
その年の9月、私は読売ジャイアンツの入団テストに挑戦します。落ちたら、野球をあきらめようと思って受けたのですが、私は1次、2次、3次と通過して、最終候補の2人にまで残りました。正直、当時の私の実力からしたら奇跡でした。
ただ、周りのプロ野球選手と比較して体格に恵まれていなかったことに加え、練習がかなりきつかったこともあって、プロ野球の世界でプレーしていく自信を持つことはできませんでした。結果的に、断念して大学進学を決めます。
しかしながら、220人もの大学生や社会人の野球経験者が参加した中、最終メンバーにまで残れたことは大きな自信になりました。諦めることは簡単ですが、ありえないと思うような状況でも、強い思い、運、縁、それらが化学反応を起こした時、夢をつかむことができるのだと私は18歳の時に体験したのです。
 



ゴールを常に意識する感覚

大学の野球部には、元プロ野球選手で、テレビ番組『プロ野球ニュース』のキャスターをしていた佐々木信也氏の息子がいました。同級生だった彼と友人になったことがきっかけで彼の家によく泊まりに行ったのですが、そこで、数々の目からうろこが落ちるような体験をし、今まで得た知識と全然違うものが自分のポケットの中に入っていく感覚を得られました。
こうした経験は将来何をやりたいかと考える時にも非常に大きなポイントになると思います。自分が元々知っていることから選ぶのではなく、色々な場所に行き、さまざまなチャレンジをすることで、選択肢を増やせるからです。
頑張れば達成できそうなことの少し上に目標を設定したら、そこから引き算をして、今何をやるべきかを考える。この手順を踏むだけで、すべての行動が確実にゴールに近づくプロセスになります。皆さんにもこの感覚を身につけてほしいですね、人生がガラッと変わりますから。
 



2004年問題をきっかけにプロ野球界へ

2004年のプロ野球界では、大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブが合併したり、ストライキがあったりと、「球界再編問題」と呼ばれる出来事が起こりました。そして、野球がサッカー人気に押されていました。
ITの世界でビジネスの経験を重ね、当時は欧州の通信会社を経営する立場でした。しかし、高校時代、何があっても簡単には諦めないという経験をさせてくれた球界へ感謝の気持ちも強くあり、「野球×ビジネス」で何かできることはないかと考えました。
まずは、プロ野球の経営について学ぶため、平日の夜に「スポーツマネージメントスクール(SMS)」に通い始めました。その場で、千葉ロッテマリーンズの当時の球団社長と出会ったことがきっかけとなり、2005年に千葉ロッテへの入団が決まります。企画広報部長を経て、その後、事業全体を任されるようになりました。この年は、観客動員も売上も倍増し、チームは日本一、さらにはアジア一にもなるという非常に思い出深い1年となりました。
さらに、千葉ロッテの事業改革を行った経験をいかし、2009年、スポーツ業界全体のITや経営の管理などを担う「スポーツマーケティングラボラトリー」社を設立。2013年からは、野球日本代表「侍ジャパン」のプロジェクトを任されており、さらにこの事業を推進するために今年11月に設立した「NPBエンタープライズ」社の執行役員に就任しました。
 



東京五輪がスポーツビジネスの発展に

6年後、東京で五輪が開催されます。今から50年前、1964年に東京五輪がありましたが、それを機会に、カラーテレビが普及し、高速道路や地下鉄ができて、日本は高度成長を遂げました。そんな大イベントが再び6年後にやって来ます。その頃は皆さんが社会で活躍し始める時期でもあります。まさに皆さんが社会を創っていかなければならないのです。
スポーツビジネスは、アメリカでは大きなマーケットになっていて、非常に伸びている産業です。しかし、日本ではスポーツビジネスとは何かを知らない人も多いでしょう。
たとえば、プロ野球と一言で言いますが、グラウンドに出ているプレーする9人、ベンチの選手、2軍選手、コーチ、トレーナーなどのほかに、トレードやドラフト会議などの仕事を行うスカウティング、編成、チケット収入やテレビ放映権、球場の物販などを企画する事業グループなど、チームを支える仕事をしている人たちがさまざまです。このようなビジネスも、東京で五輪が行われることによってより身近なものになっていくと思います。
世の中には、新しくて大きなことをやるチャンスがごろごろ転がっています。一人の力は小さくても、周りを引き寄せることで、それらのチャンスが現実となり成功につながっていきます。
現在、日本のGDPの70%はサービス業と言われています。物づくりよりもアイディア勝負の時代。大企業が成長しづらい時代の反面、一人ひとりが強い気持ちと熱い心で自分らしいサービスを創っていくという思いを持てば、それが叶います。一番大事なのは、心の中に秘めた闘志やビジョン、パッションを持つこと。強い意志と絶対にあきらめない気持ち、成し遂げたい夢や達成したい目標を持って、自分の道を歩んでほしいと思います。
 


 

<プロフィール>

荒木 重雄(あらき・しげお)

千葉商科大学サービス創造学部 特命教授
株式会社スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役
株式会社NPBエンタープライズ 執行役員 事業担当
株式会社ホットランド 取締役
 
1986年日本IBM入社。国際ネットワーク事業に9年従事した後、欧米系通信会社の日本法人の要職を歴任。2005年千葉ロッテマリーンズに企画広報部長として入社。事業部長、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事する。2007年パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)の設立に伴い、同社の執行役員、取締役。2009年千葉ロッテマリーンズ退団後、株式会社スポーツマーケティングラボラトリーを設立。2013年4月より一般社団法人日本野球機構(NPB) 特別参与(侍ジャパン事業戦略担当)。2014年11月より、NPBとプロ野球12球団による初の共同事業会社、株式会社NPBエンタープライズの設立に伴い執行役員事業担当に就任。これまで日本サッカー協会(JFA)広報委員、日本トップリーグ連携機構プロジェクトメンバー、文部科学省委託事業「スポーツの環境の整備に関する調査研究事業」プロジェクトメンバー、国土交通省・観光庁「スポーツ・ツーリズム推進連絡会議」委員などを歴任。千葉商科大学サービス創造学部特命教授も務める。
 

 

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サービス創造熱血講座 今後の予定
<第2回>12月22日(月)「スポーツビジネスを創る(2)」
講師:村山 哲二氏
株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティング代表取締役。地域のスポーツ活性化を目的として、2006年に日本で2番目となる野球の独立リーグ「ベースボール・チャレンジ・リーグ」を設立。
 

<第3回>2015年1月6日(火)「映画を創る」 
講師:草野 翔吾氏
桐生出身の若手映画監督。大学在学中に制作した『Mogera Wogura』が上映館のレイトショー観客動員記録を樹立。2012年公開の長編映画『からっぽ』は、第4回沖縄国際映画祭パノラマスクリーニング部門、第27回高崎映画祭“若手監督たちの現在”に選出。ミュージックビデオやCMなど、幅広い分野の映像を手がける。
 

<第4回>2015年2月26日(木)「音楽を創る」 
講師:近藤 薫氏
1999年、ロックバンド「スィートショップ」のボーカリストとしてメジャーデビュー。2004年よりソロ活動。現在はLive活動を全国で展開しながら、ドラマやアニメの主題歌、人気アイドルグループなど幅広いアーティストに楽曲提供するなど、数々のヒット曲を生み出している。