2014年8月27〜28日の2日間、全国ビジネス系大学教育会議(第31回全国研究会議)が千葉商科大学で開かれた。会議の統一テーマは「ビジネス系大学教育モデルの創造をめざして」。ビジネス系大学・学部をリードする教員が全国から一堂に会した。学術か、実学か。大学か、学部か。現状をひもとく数々の講演とそれに伴う議論で会場は熱気に包まれた。


政府も注目する「サービス経営」

戦後本格的にスタートしたとされるビジネス系大学教育。経営学、商学、会計学、情報科学などの研究成果を元に、これまで多くの人材を育成してきた。
そして31年前、大学における経営学教育について議論する場として、経営学部長会議の参加者たちが「全国ビジネス系大学教育会議」を立ち上げた。その後、商学、会計学、経営情報科学を担当する教員たちが加わり、ビジネス系大学教育について議論が重ねられてきた。
2014年6月20日の日本経済新聞夕刊1頁で、「サービス経営 50大学で」という記事が掲載されたように(*)、経済産業省が2014年から5年間で全国50大学に専門の学部・学科を設置するという目標を掲げるなど、ビジネス系大学・学部・学科に関する注目は高まりを見せている。世の中が少子化に向かい、学生確保に向けた大学間・学部間の競争が激化する時代において、ビジネス系大学の教育モデル構築は、企業におけるビジネスモデル構築と同様に重要なテーマだ。しかし一方で、この教育とは、学生確保のためのものではなく、将来のビジネス社会を担う人材を育成し、学生が人間としての成長するためのものであることは言うまでもない。
このような背景を踏まえ、今大会では「ビジネス系大学教育モデルの創造をめざして」と題し、「ビジネス系大学における教育をどのようにデザインし、どのように実施していくか」について、2日間にわたり議論が繰り広げられた。
 
*サービス経営学、50大学で 京大院に専門課程
記事はコチラから

 
大会1日目は、大学教育評論家・山内太地氏、経済産業省・白石重明氏、高校関係者として千葉吉裕氏、そして産業界から大竹美喜氏が、それぞれビジネス系大学教育に対する現状認識と今後の要望について語った。
続く大会2日目は、本会議の会長を務める千葉商科大学サービス創造学部・吉田優治学部長をはじめ、九州産業大学経営学部・池内秀己学部長、立正大学・山崎和海学長、産業能率大学・宮内ミナミ学長と、ビジネス系大学教育モデルを設計・実施する大学の学長や学部長が登壇。最終セッションでは、中部大学・辻村宏和教授がモデレーターとして加わり、学長・学部長による全体総括が行われ、ビジネス系大学教育モデルの現状と課題認識について白熱の議論が展開された。
 
 

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<1日目>
 

「ビジネス系大学教育への要望」

 

山内 太地
一般社団法人 大学イノベーション研究所所長・大学ジャーナリスト

 
日本全国の大学教育の先進事例とともに、タイのコーオプ教育(企業と連携した訓練・監督による教育システム)などを紹介。「専任教員が足りない、科目が多すぎる、教育以外の作業が多すぎる、ビジネス系なのに数学を軽視している、実務的でない、など、ビジネス系大学の教育現場にはまだまだ課題も多い。抜本的な改革を先送りしている大学は、時代から取り残されてしまう」と危機感を示した。
 


 
 

「サービス産業政策の最近の動きとビジネス系大学教育への要望」

 

松岡 建志
経済産業省商務情報政策局 サービス政策課長

 
サービス産業の現状と課題と対応政策について、「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、観光業を中心にサービス産業需要の増大が期待される。経営人材育成や雇用制度の見直し、IT活用、少子高齢化に対応する地域政策などを見据え、大学との教育プログラムづくりを始めた」などと語った。
 


 
 

「ビジネス教育における高校と大学の接続」

 

千葉 吉裕
東京都立晴海総合高校教諭・全国高等学校進路指導協議会事務局長

 
高校生の大学進学時における進路指導の観点から、大学の学生募集について独自の理論を展開。「ホランドの職業選択理論で言うE型(企業的)タイプがビジネス系学科向きだが、彼らが好む科目は高校の教育課程に少ない。知識伝授型ではなく創造開発型教育実現のために、高校・大学の連携は不可欠」と指摘した。
 


 
 

「社会が求める人材像とこれからの大学のマネジメントの在り方」

 

大竹 美喜
アメリカンファミリー生命保険会社 創業者兼最高顧問・教育再生会議委員

 
外資系企業の日本法人として起業後40年を迎えた。「世界は一つ。国境はなく、人類が共生する時代。『グローバル』ということ自体、グローバルさを欠いている。日本人かどうかではなくどのような人間を育てられるか。人材教育について大学が担う責任は重い」と、人材育成に注力してきたと語る氏ゆえの厳しい提言も。
 


 
 
 
<2日目>
 

「ビジネス系大学教育モデルの創造をめざして」

 

吉田 優治
千葉商科大学サービス創造学部学部長・全国ビジネス系大学教育会議会長

 
日本経済新聞でも政府の参考例として紹介された学部の現状を報告。「学問・企業・活動から学ぶ、3つの学びを実践し、公式サポーター企業53社の企業人からビジネス現場の話が聞けるのが特長。大学全体の連携など課題はあるが、初年度から2年連続就職率99.3%を誇るなど、学部学生の成長ぶりを実感している」と語った。
 


 
 

「九州産業大学経営学部 事業開発コースの事例」

 

池内 秀己
九州産業大学経営学部学部長

 
時代・社会の変化による教育改革を迫られる中、九州産業大学経営学部は、2001年「事業開発コース」を開設、2008年からPBL(Project-Based Learning)を導入した。「学生の自主性と放任のコントロールなど課題もあるが、これらを教育基盤として認識し、教員採用も含め、全学的に取り組むべき課題である」と説明した。
 


 
 

「これからの大学と教育モデル」

 

山崎 和海
立正大学学長

 
同大学経営学部学部長から学長と立場も変化した氏が直面する課題について言及。「国全体の教育方針に基づき、いかに考える学生を創造し、大学アイデンティティを創出するか。そのために、大学全体のマネジメントと学部裁量権のバランスは課題」と教育モデルを実現するための組織の在り方の課題意識も述べた。
 


 
 

「産業能率大学経営学部における教育モデルの設計と実施」

 

宮内ミナミ
産業能率大学学長

 
今年4月より学長に就任した氏が、教育モデルの在り方についてプレゼンテーション。「ビジネスパーソン育成のために、実践的なカリキュラムとアクティブラーニングに注力している。そのため、自分自身は教員畑を進んできたが、周囲の教員にはビジネス実務者を積極的に採用している」と同大学の取り組みを紹介した。