千葉商科大学サービス創造学部では、教育の柱として「学問から学ぶ」「企業から学ぶ」「活動から学ぶ」の3つのポリシーを掲げている。その中には、同学部の公式サポーター企業57社協力のもと、直接企業のプロから指導を受ける講義も設けられており、今井重男教授、宮澤薫准教授が担当する「サービス創造実践2A」もそのひとつ。公式サポーター企業の「佐川急便株式会社」をお招きし、企業説明、目指す方向性などの講義が展開された。


グローバルに展開する国内トップクラスの宅配会社

佐川急便の創業は、1957年京都-大阪間で運送業を始めたことに始まる。以来、60年近く、「飛脚の精神(こころ)」を受け継ぎながら、荷物を配達してきた。講義に登壇した同社営業開発部営業開発担当部長の林弘志氏は、「当社のモットーは、“皆様のお手元に最後までしっかり届ける”こと」と企業理念を語る。
2006年に設立された佐川グループホールディングスの中核会社である同社は、425拠点、連結従業員数約8万人、グローバルネットワーク海外24カ国・地域100社以上、取引企業数100万社という国内トップクラスを誇る宅配会社。環境保全にも力を入れており、低公害車の導入や自転車・台車の積極活用、全国78拠点で太陽光パネルを設置するなど、CO2排出量の削減も実現しており、2015年度には「環境経営度調査運輸部門」で1位を獲得した。
「健康でありたいというニーズが増えてきますし、人手が足りないゆえの技術革新の必要性、生活支援のインフラを整えていくことも大事。我々に与えられた課題は多いです」と林氏は将来像を語った。
 

佐川急便株式会社の営業開発部営業開発担当部長の林弘志氏は、「宅配業だけでなく、さまざまなジャンルに注目し、マーケットを大きくしていかねば企業の成長が止まる」と語る。

 


学生たちが考えた新たなサービスとは?

こうした背景を踏まえた上で、同社より学生たちに課題が与えられた。テーマは「伸びる市場を着目し、佐川の新しいサービスを考える」。5、6人でチームをつくり、7グループに分かれた学生たちは、約1カ月の間、この課題に取り組んだ。各班、現状の市場分析やSWOT分析を行い、新たなサービスを考案。制限時間7分の中で、各チームがプレゼンを行った。
 
●1班「SAGAWA BOX」
ネット通販市場に着目し、受け取り専用ボックスを提案。佐川急便の営業所を利用し、24時間受け取り、代金引換を可能にし、人手不足、コスト削減を可能にするサービス。
 
●2班「佐川グローバルロジスティックス×ヤマダ電機」
訪日外国人増加に伴い、2014年度の売り上げ、東京23区の店舗数ともに第1位のヤマダ電機と手を組み、外国人観光客を対象に海外発送を行うマーケットに注目。中でも、台湾、韓国、中国の外国人観光客が多いことから、佐川グローバルロジスティクス(佐川グループのひとつ)の協力のもと、3カ国に絞った輸送対応を行う。
 
●3班「アプリの発展」
通販市場が拡大している点を踏まえたうえでの提案。ドライバーと受取人のダイレクト通知機能、注文履歴がわかる機能をつけるなど、BtoCを強化するサービス。
 
●4班「SOB (SAGAWA ONLY BOX)」
環境に配慮したサービス。佐川急便が独自でつくる壊れにくく、何度も利用できる箱で配達することでコスト削減につなげる。箱には、「衝撃に強い」「電気を通しにくい」「熱に強い」「軽い」など利点の多いポリカーボネート素材を利用。浮いたコストでローソンと提携、SOBで頼んだお客様が商品券、応募券スクラッチをもらえるという特権も。
 
●5班「配達員指名サービス」
再配達のコスト軽減につながる「佐川アイドルになっちゃうよ」サービス。指名したい男性を選び(有料)、指名率が高い佐川男子が社内で表彰されるというもの。
 
●6班「サプライズ急便~嬉しいのその先へ~」
ネット通販の急増と、若者の携帯使用率に着目。アプリを活用し、ネット通販が同時にできたり、ポイントをつくることで送料が無料になったり、特典がつく。さらに、サプライズ急便という、カップルや家族、友人などにサプライズでプレゼントを配達するサービス。
 
●7班「配達員性別選択サービス」
女性従業員の活躍に力を入れている同社。性別が選択できるサービスは、女性にとってもニーズが増えるという観点から提案。
 

5班では、「配達員指名サービス」を提案。社員のモチベーションも高まり、お客様のワクワクにもつながるという狙いだ。

 

「受け取り専用ボックス」を提案した1班。林氏は、「従来の既存のサービスを整理する必要性があると、皆さんの提案から思った」と講評した。

 


プレゼンを受けて上位3班が選出 

学生たちのプレゼンを受け、エリア管理部部長の菊地秀男氏は、「ユーザー目線で展開してくれたチームが多かったので、私たちにとって非常に新鮮でした。予想以上にまとめ方が上手で、無理のないストーリー展開で、こなれていた。もう少し将来を見据えた提案があれば、もっとダイナミズムな企画になったと思います」と同社を代表して全体を総括した。その上で、市場分析、利用ソース、新鮮さという観点で、上位3チームが選ばれた。
 
1位:2班  
講評:市場への着目、説得力ある分析、ビジネスの実現性に勝るものはない。
 
2位:4班
講評:環境に着目し、ユーザーニーズに紐づけたのSOB。ビジネス性も担保されており、実現したいサービス内容と評価。
 
3位:6班
講評:とことんユーザーの思いに密着する、感動を与えることを改めて認識した。
 
結果を受けて、2班のリーダー、増田侑太くん(サービス創造学部3年)は、「嬉しいの一言です。林さんからの講評で、この班のみデータを使っていたことを評価していただいていたので、少し期待はしていました。自信につながりました」とコメント。同じく小川明夏さん(同3年)は、「中間発表からの1週間は、授業以外の時間と休みの日を使って取り組んできました。なんとか完成できてよかったという気持ちが大きく、優勝なんて考えていなかったのですごく嬉しいです」と笑顔を見せた。
 
こうした仕事の数々は、自分の心意気次第で入社後すぐにでも任されるという。
「仕事のやりがいは、自分でアイデアを考え、足でいろいろなお客様に会って、新しいフィールドを切り拓き、お客様の笑顔を現場で直接見られること。自ら考えて積極的に行動し、そこにホスピタリティ精神を加えることで、お客様から信頼を得て仕事を生み出す。我々はこうしたことができる『自律創造型社員』を求めています」と石井さんは、溌剌とした笑顔で学生たちに語りかけた。
 

優勝した2班のメンバー。佐川急便のオリジナルグッズをもらって、満面の笑み。

 

2位になった4班。環境とコストに配慮した提案が、評価された。

 

3位の6班。発表の仕方にも工夫が凝らされたところも高評価された。

 
林氏は最後に、「皆さんの特権は若さです。学生時代の4年間は短い。無駄だと思うこともあるでしょうが、これはすべて行く道の肥やし、人生の糧になると思います。いろいろなことを見聞きして、挑戦して、大きな人になってほしい」と学生たちにエールを送った。
 

プレゼンの審査も行った、佐川急便株式会社の原誠二氏、林氏、菊地秀男氏(左から)。

 

現在佐川急便つくば営業所のセールスドライバーとして活躍する、同学部2期生の椎名沙衣さんも登壇し、同社の魅力について「女性にとっても働きやすい会社」と話した。

 

※なお本記事は、千葉商科大学サービス創造学部の今井重男教授・宮澤薫准教授による講義「サービス創造実践」の佐川急便株式会社担当回の講義内容を抜粋・編集したものです。