久保田紀和
富士屋ホテル株式会社 富士屋ホテルチェーン
管理本部総務部 人事課 課長

日本最古のリゾートホテルとして外国人に人気を博した富士屋ホテルは、100年以上経った現在も国内外の旅行者に高い評価を得ている。そんな人気ホテルで人事課長を務める久保田紀和氏が語る、「富士屋ホテルで採用したい人物像」とは。


お客様の期待値を上回る
サービスを提供する

ホテルを利用するのはどんなときだろうか。宿泊はもちろん、特別な記念日や大事な商談で使ったり、ときにはくつろぎを求めてラウンジでお茶を飲んだりすることもあるだろう。だが、とにかくホテルは値段が高い。コーヒーを例に挙げれば、1杯1000円はするところも多いはずだ。コーヒーショップならせいぜい400円というこの時代に、だ。一体、なぜなのか。
「ホテルのコーヒーの値段には、豆の種類や挽き立てかどうかといったコーヒー自体の品質だけではなく、空間の快適さや雰囲気、心地よいサービスが得られるという期待感が含まれています。たとえば、商談中のお客様にはコーヒーをそっと差し出す。子どもがいたらテーブルから離れてコーヒーを注ぐ。ときには一緒に会話を楽しんで、サプライズを提供します。ホテルの接客には、おもてなしの心、ホスピタリティ精神が必要で、それによってお客様の満足感がより深まる。ホテルビジネスの根幹はこの部分なのです。」
そう話すのが、ホテル業界の老舗・富士屋ホテル株式会社の人事課長久保田氏だ。
 

「東京のホテル不足をチャンスとみた外資系ホテルが、2000年代に入って続々オープンしている」と日本のホテル産業全般の流れについて説明する久保田氏。


富士屋ホテルのもつ
歴史こそが最大の強み

富士屋ホテルは、国内外のお客様から高い評価を得ている。
「“日本ホテルの父”と言われた創業者・山口仙之助は、『至誠』をモットーとしていました。それは、137年たった今も、すべての従業員の指針になっています。私たちはこの気持ちを忘れずにお客様に接しています。」
富士屋ホテルの創業は1878年。日本初の外国人専用のリゾートホテルとして富士山を望む箱根の地に誕生した。一度火事で燃えてしまったが、すぐに再建された明治時代の建物は、神奈川県の指定文化財になっている。きめ細やかな接客とともに、ホテルの「歴史」がさらに人気に拍車をかけている。
「現在好評のブライダル事業は、昭和初期から行っています。結婚式を挙げたすべての方のお写真を保存しているので、たとえば、『おじいさんの結婚式の写真が見たい』と言われればすぐにお出しすることができます。ホテルがもつ歴史こそが我々の最大の財産です。」
一方、従業員の平均年齢は37才、正社員に限れば32~33才と、運営を支えるのは若い力だ。「ホテルの仕事はほとんど座ることができないし、様々な人から常に見られていますから、精神的にも体力的には厳しい部分はありますが、一瞬一瞬のおもてなしで『ありがとう』と言ってもらえる、やりがいのある仕事です」と久保田氏は語る。
 

富士屋ホテルの歴史が綴られたパンフレットを熱心に読みふける学生たち。


採用不採用は15秒以内で決まる!?
就職面接では第一印象がカギ

人事課長を務める久保田氏だが、ホテルマンとしてどんな人材を求めているのだろうか。
「人と接する機会が多い仕事だからこそ、会って15秒以内に感じる第一印象が重要です。きちんとした身だしなみで清潔感があって、礼儀正しく姿勢良く、人の目を見て話せるか。誰でもすぐに改善できる部分ですが、とても重要です。あとは、このホテルに入りたいという熱意を、いかに伝えられるか。どの企業でも同じでしょうが、この業界に入って何がしたいのか、そのためにどんな努力をしているのか、といった質問の答えは用意しておいてほしいですね。その上で富士屋ホテルでは、勤勉さと負けず嫌い、想像力と行動力、コミュニケーション能力を持っている人を求めています。」
2020年、東京オリンピックで国内外から多くの宿泊客が訪れることが予想される。また、2028年に富士屋ホテルは創業150周年を迎える。「当社はそのときを見据え、将来活躍できる人材を採用し、大切に育てていきたいと思っています」と久保田氏は締めくくった。
 

授業終了後、学生からの質問に答える久保田氏。

 
※本講義は、同大学サービス創造学部「サービス企業セミナー1」(担当:井上義次教授)の授業内で行われた。
 

<プロフィール>

久保田紀和(くぼた・のりかず)

富士屋ホテル株式会社 富士屋ホテルチェーン
管理本部総務部 総務・人事課 課長
 
1995年入社。レストランサービス、フロント、予約業務などを経て人事へ。人事担当歴は10年以上。毎年数百名もの学生と面接し採用する、いわば人材の目利きのプロ。