消費者が求める運動サービスを核とした特化型サービス

千葉商科大学サービス創造学部の教育の特徴は「3つの学び」だ。学生たちは、「学問」「企業」「活動」から学んでいる。なかでも、「企業から学ぶ」という側面では、ビジネスの第一線で活躍する企業人から、現場で役立つスキルについて、直接指導を受けられる機会が数多く提供されている。今年からは、宮澤薫准教授・今井重男准教授が担当する講義「サービス創造実践2A」が始まり、その中で、昨年同学部の公式サポーター企業となった「株式会社ルネサンス」の伊藤啓司氏を招いて、企業で実際に行われる企画立案、プレゼンテーションについて講義してもらった。企業が求める課題に、学生たちの企画立案やプレゼンは応えられたのか。


スポーツクラブ市場が抱える問題点とは?

国内に100店舗、ベトナムなどでもスポーツクラブを展開する株式会社ルネサンスは、2014年度の売上高420億円、スポーツクラブ業界では第3位の規模を誇る。会員数、売上高ともに年々増加し、今後も大型のスポーツジムでダンス、空手などスポーツに関するさまざまなサービスを提供することで会員数の増加を狙うが、「わが国におけるスポーツクラブ市場の現状は必ずしも楽観できるものではない」と伊藤氏は語る。「その第一の要因は日本の人口減の問題です。特に20歳から60歳までの人口の急減が深刻です。さらには、震災の影響による建築ラッシュ、働き手不足、東京オリンピックが重なり建設コストが上昇して、新しい大型のスポーツクラブが建てにくい状況になっています。」
 

課題の発表前に講義を受ける学生たち。伊藤氏からの質問について友人と相談中。


ライザップを超える新しい切り口のサービスを提案せよ!

現在、フィットネス業界の再編が活発化しているという。
「サントリーが運営していたティップネスを日テレに売却したり、ダンロップがフィットネスクラブを買い取って健康事業にチャレンジしたりするなど、日本で40年間、成熟してきたフットネス市場が新たなステージに入ろうとしています。そんななか、注目を集めているのがライザップ。ライザップでは教室程度の小スペースでダイエットだけを切り取り、2カ月という短期間で成果を保証するというサービスを提供しました。短期間のダイエットは危険だと考え、従来のスポーツクラブでは取り入れなかったサービスです。しかし、お客様は短期間でやせることを強く望んでいました。実際、ライザップの売り上げは3年間で100億円を超えたようです。このように、お客様のニーズを満たす新しい切り口のサービスを企画してもらいたい。」
 

「消費者が求める運動サービスを核とした新しい特化型サービスを企画・提案せよ」という課題が学生たちに与えられた。


暗闇バイクエクササイズ・フィールサイクルを提案!

学生たちは4~5人で1組のグループに分けられ、企画立案のために2週間の時間が与えられた。伊藤氏からの注意事項は、以下の4点。
1. お客様にとっての価値を必ず入れる。
2. お客様のセグメンテーションとターゲットを示す。 
3. 既存のスポーツクラブと何が違うのかをはっきりさせる。
4. 4ページのフレームワークを使って説明する。
これらを踏まえ、各自が現状の市場分析、ルネサンスの強みと弱点などを分析し、サービスを考案。制限時間10分で各チームがスライドや模造紙などを駆使しながら次々とプレゼンを行った。
 

調べてきたことがぎっしり書かれた模造紙をバックにプレゼン。

 
そのなかで「チームパリピ」の提案がひときわ目を引いた。カラーラン、バブルラン、エレクトリックランなどのファンランが若者に大ブームであることに目をつけ、友人と思い出を共有でき、またSNSに投稿したくなるフォトジェニック性を兼ね備えた「暗闇バイクエクササイズ・フィールサイクル(暗闇のなかで、大音量の音楽をかけながらバイクをこぐ)」を企画。「若者がジムに行くには友人と思い出を共有できる楽しさ」という視点や「SNSにアップして満足感を得たくなるフォトジェニック性が必要」と自らの体験を交えながら、若者の行動分析をおりまぜた提案には説得力があった。
 
ほかにも、出会いの少ないアラサー女子をターゲットに、結婚情報誌「ゼクシー」とコラボしたフォトロゲイニング(オリエンテーリングスタイルで写真を撮影するランニングイベント)企画を立ち上げて二人の仲を取り持とうという企画や、定年後の60代に向けた介護予防プログラムとして、地方のジムでテニス対抗戦を開き交流旅行を行う企画などが発表された。
 
チームパリピでプレゼンテーションを行った深澤佳菜さん(サービス創造学部2年)は、「提案にあたりたくさん会議を重ねました。自分たちが納得するようなプレゼンテーションをしたい! という気持ちで、言葉の言い方やパワーポイントづくりに関して全力で取り組みました。メンバーと討論を重ねることで自分たちの提案に自信と愛着が湧き、その気持ちが企業の方に伝わったのではないかと感じます。プレゼンテーションとOUR WEDDINGプロジェクトのイベントが同日に重なり、心身ともにギリギリの状態でしたが、やり終えた瞬間に今まで必死にやってきてよかったと思えました。今回の経験を活かし、人に何かを伝える際には、自信を持って自分の言葉で伝えていきたいと思います。」
 

「チームパリピ」。同じサングラス、黒のスーツに身を包んでチームの統一感を演出。


プレゼンを受けて

学生たちのプレゼンを聞いた伊藤氏は、「企画を立てる際に大事なことは、お客様が今、何を欲しているのかを考えること。そして、そのニーズを見つけて仮説を立て、本当に多くの人がそれを欲しているのかについて検証していくことです。今回の企画内容においては、その点が今ひとつ欠けていたかなと思います。
“ルネサンスは生きがい創造企業だ!”という部分を企画に反映させてくれたグループも多かったのですが、それはあくまでも企業の理念。企業側の視点からのサービスは必ずしもお客様のニーズとは合致しないのです。その点で、“チームパリピ”の『フィットネスジムは楽しくない、では楽しくするためにはどうしたらいいのか』というお客様のニーズを出発点にした企画は良かったと思います。
あと、プレゼンの仕方ですが、プレゼンは自分の伝えたいことを相手に理解されて「ナンボ」です。自分の考えていることを人前で話す、という点はみんなできていたので、次は相手に自分の考えを理解してもらうためにはどう伝えればいいのか、そこをぜひもっと工夫してほしいと思います」と語った。
 
企業の課題をともに考え、そして社会で必要とされるプレゼンのエッセンスを直接学んだ学生たち。こうした貴重な経験が、彼らを一歩一歩成長させていくことになる。
 
 

<プロフィール>

伊藤啓司(いとう・ひろし)

株式会社 ルネサンス 教育研究チーム課長
 
ゴルフコーチ、システム企画を経て、2002年同社へ。経営企画、事業企画を担当後、新規事業推進部にてスポーツクラブのインストラクターを目指す人に向けた指導、教育を担う。
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