千葉商科大学サービス創造学部では、年間100人以上のゲストスピーカーに登壇いただいている。講義を通じて発信されるメッセージに焦点を当てる「ゲストスピーカーのコトバ」。タリーズコーヒージャパン株式会社専務取締役・岩古良春氏の講義から、コトバをピックアップする。
「モノを売るのは恋をするのと同じこと」
私たちはマーケティングをする時に、「お客様を知る」「お客様に添う」「お客様にサービスする」「お客様を引き付ける」「お客様に知らせる」という5つの機能を重視します。いかにお客様の視線で物事を考えるかが大切です。これはいわば恋のようなものです。「彼女はいったいどんな人なのだろう」「彼女が喜ぶことはどのようなことだろう」「彼女に楽しんでもらおう」「彼女を振り向かせよう」「彼女に自分を知ってもらおう」……、こうした気持ちが一方的になりすぎてしまえばストーカーになってしまいますが(笑)、相手を思いやり、喜んでもらえるように尽くすことこそマーケティングの基本なのです。
「私たちの仕事は空間を売る仕事」
昨今、コンビニエンスストアでも手軽にドリップコーヒーが飲めるようになっています。講義の中で学生さんからも、「コンビニコーヒーの動向に危機感をもつことはないですか」というような質問をいただきましたが、私たちは、彼らの競合は「缶コーヒー」だと思っています。現状のテイクアウト率の増減を見ていますが、現時点ではこうしたコンビニコーヒーに対する直接的な脅威は感じておりません。
確かに、タリーズの店舗ではコーヒーを売っています。そして、コーヒー豆と焙煎の品質に関しては、高いプライドを持って提供していることは事実です。
しかしながら、私たちの仕事は単に「コーヒーを売ること」だけではありません。自信のある上質なコーヒーを飲みながら過ごす時間、一緒に過ごす友達との会話……。こうした居心地のよい空間を提供することこそ私たちの仕事だと思っています。
「付加価値はすべて人である」
1杯300円あまりのコーヒーを買っていただくだけではなく、いい空間を提供したい。それが私たちの想い。しかしながら、私たちのように全国展開するコーヒーショップという営業形態で、帝国ホテルやディズニーランドのような、いわば最高の接客を提供することまでは難しいことも事実です。
しかし、若い人たちの笑顔はかけがえのない社会の財産だといえます。ちょっとした思いやり、タリーズというブランドに対するちょっとした誇り。そうしたものがスタッフのサービス精神を高めます。彼らの笑顔と思いやり、そして自信。これらの積み重ねが、居心地よい空間づくりに貢献しているのです。私たちタリーズの店舗が生み出す付加価値とは、すべてが「人」なのだと感じています。
【岩古専務に聞く】
――学生たちに対して講義するのはどのような感覚でしょう。
岩古 年齢は離れていますが、これまで私が経験してきたことの中に、多少なりとも彼らが役立てられる部分があるはずだと思っています。だから、私自身が本気になって、持っている力を全てぶつけようという気持ちで臨んでいます。仮に真剣に聞けていない学生がいたとしても、それは話している私の責任。こうした機会は私にとっても刺激になります。
――若い人たちと話すことを楽しんでいらっしゃいますね。
岩古 親会社の伊藤園は設立49年の企業。私が伊藤園に入社したのは設立10年目くらいでした。その後東証一部への上場を果たし、社員の平均年齢も30歳を超えました。
一方タリーズコーヒージャパンは、社員の平均年齢が28歳、ショップスタッフは平均年齢25歳位と非常に若い会社です。若い人たちと話すことは、私達の職場でも大切なテーマ。ジェネレーションギャップがあるのは仕方ないことですが(笑)、「明日の楽しみを自分が一緒に楽しむ」という気持ちで向き合っています。
――学生たちには、今後どのようなことを期待していますか。
岩古 我が社に入ってくる新入社員などを見ていて感じるのは、「商売上の損得感覚が弱い」ということです。理論を学ぶことは非常に大切ですが、どれだけ売上があるのか、粗利率は何%なのか、その数字が何を意味しているのか……など、事業をする上では実践的な商売感覚を身につけることが重要です。ですから、大学でもビジネスの実践に生かせる感覚を身につけられる環境があるといいですよね。このように、大学教育について私たち企業側の要望も含めて議論できることは、大変ありがたいことだと思っています。
<プロフィール>
★ GLinks Café in CUC ★
11月12日から14日にかけて、千葉商科大学キャンパス内に期間限定カフェ「GLinks Café in CUC」が設置された。学内コミュニケーションを活性化する場づくりを目指し、同大学サービス創造学部の「コミュニティ・カフェプロジェクト」に参加する学生が企画、同学部公式サポーター企業のタリーズコーヒージャパンの協力を受け実現した。コンセプトは「緑をそばに感じられるカフェ」。緑(=Green)とつながり(=Links)を組み合わせた造語「GLinks」を名称とした。
カフェでのひとときを体験した人たちからは「大学にカフェがあるだけでこんなに華やかになるんだと思った」「タリーズのコーヒーを初体験できてうれしい」などの声が寄せられた。他学部の学生たちも含めて注目を集め、売上は想定の倍に達したと言う。このカフェを企画したコミュニティ・カフェプロジェクトの一員、矢口優志さんは「タリーズの営業の方から接客マナーを教えていただいた。今後のプロジェクトでも引き継いでいきたい」と振り返った。