千葉商科大学サービス創造学部でマーケティング論を専門とする安藤和代准教授。アパレル企業の広報を経て、現在は研究者そして教育者として教壇に立つ。彼女の学生たちに対する期待、今の想いに迫る。

 

恵まれた環境で広報のスペシャリストに 

――先生は元々ワールドのご出身と伺っています。就職されたきっかけは何だったのでしょう。

安藤 私が大学を卒業し就職した年に、男女雇用機会均等法が施行されました。この法律が検討されるくらいですから、当時はまだまだ男性中心の社会だったということでしょう。女子社員の採用では、短大卒業生優遇、女性は一般事務職のみ募集といった企業が残っていたように記憶しています。
ですから私は、女性でも普通に仕事ができる環境を求めて、業界業種というよりも女性を活用している会社であるかどうかに主眼を置いて就職先を探しました。当時の就職活動では皆そうしていたと思いますが、大学の先輩を訪問することから始めました。商社、百貨店、運輸、システム開発、様々な業種の先輩を訪問しましたが、多くの先輩たちが「職場の人たちに恵まれている」「福利厚生がしっかりしている」といった話を熱心にしてくださる中で、ワールドの先輩はイキイキと仕事について語ってくれたことが印象に残りました。やりがいや自分の課題を熱っぽく話す先輩の姿を見て、「こういう先輩と一緒に働いてみたい」と思い、ワールドへの入社を希望しました。洋服作りに関心があったことや、会社訪問をしたとき“水があう”というのか、違和感を持たなかったことも、決断の要因です。

 
――会社では広報を担当されていたんですよね。元々そういう業務に興味をお持ちでいらっしゃったんですか。

安藤 入社前はブランド部に所属し、原材料を調達したり、工場手配や納期管理をしたり、といったいわゆる生産管理の仕事をしたいと思っていました。
幼い頃から母に洋服を作ってもらっていて、高校時代には、母の見よう見まねで袋小物や服を作ることもありました。大学生になると母とファッションショップに出かけ、気に入ったデザインの服を見つけるとその足で手芸店に行き、生地やボタンを買って母に作ってもらうといったこともしていました。そんな経験から服作りには興味があったんです。アパレルを希望して管理部門に配属されることをイメージする人はいないと思うのですが、私もそうでした。

 
――でも実際には、広報を担当されることになりました。

安藤 ええ。入社してすぐに管理セクションに配属されました。入社1年目は秘書業務を担当しましたが、その後、会社人としてのほとんどの期間を広報部門で過ごしました。
はじめは広報のことなど全く知りませんでしたが、実務を通して勉強させてもらいました。1つの業務をずっと担当させてもらえたことで、広報ならできるという実感を持てるまでになれたことは幸運だったと思います。今でも会社には感謝しています。
新聞や業界誌を読みどのようなネタが記事になっているのかを研究したり、社内の部門責任者や現場担当者の話を聞くなどして社内情報を集めたり、できることから始めました。記者発表会を開いたり、リリースにまとめたりして対外発表するのですが、同じことを広報するにも、編集の仕方やアプローチの仕方によってメディアの反応が違うことも多々経験しました。
注目してもらうため、意図通りに記事にしてもらうためにはどうしたらいいのかと、考えて仕事をしていました。アイデアを試してみて、うまくいかなかったら改善してやり直す。試行錯誤する中で、前よりうまく対応できるようになっていく。それが仕事の楽しさや面白さにつながったように思います。
それは、広報でなくどの部署に配属されていても同じだったかもしれません。目の前の仕事の一つ一つのプロセスを楽しいと感じることができれば、きっとどんな仕事でも楽しく取り組めるのではないかと私は思っています。

 

大学院への進学、そして大学教員の道へ 

――その後、社会人大学院へと進学されました。

安藤 家庭の事情があり会社を退職することになったのですが、15年にわたり恵まれた環境で仕事をすることができました。
落ち着いたら、また、仕事をすることになるかもしれないと思っていましたし、知人からの勧めもあって、社会人を対象にしている大学院修士課程への進学を考えるようになりました。
調べていたところ、早稲田大学大学院商学研究科に「ブランドコミュニケーション戦略研究」というテーマで修士課程が開講されていることを知り、受験することを決めました。自分の仕事内容とマッチしたプログラムでしたし、自分がこれまでに仕事で実践してきた経験を、理論的に整理するよい機会だと思いました。
修士課程に入った当初は、慣れない研究をすることに戸惑いもありました。英文の論文を読むことも初めてでしたし、100ページ以上の修士論文を書くことになるという認識もないまま進学したので。一方で自分たちが仕事の現場でやっていることを、体系的に理解し、考察することは刺激的でもありました。

 
――具体的にはどのような研究をされていたのですか。

安藤 クチコミをテーマに研究をしてきました。これには広報の仕事の経験が大きく関わっています。広報担当になったとき、社内外の人々に会社を理解してファンになってもらうことが広報の仕事だと教えられました。会社の評判は、人々が日常生活で口にするクチコミの積み重ねによって作られるものだとの思いがあったので、クチコミに関心が向いたのだと思います。
マーケティング分野のクチコミ研究では、クチコミを聞いた人が新しいお客様になってくれるにはどうすればよいのかという課題に対する取り組みが多くされてきました。なので、誰が説得力を持ってクチコミを広めてくれるのか、説得力の高いクチコミはどのようなものか、といったことを明らかにする研究です。私は影響のからくりを明らかにしたいと研究を続けてきました。また最近では、クチコミの語り手に注目した研究をしています。刺激的で楽しかった体験をクチコミすることで、その体験に対する好ましい印象がさめるということはないのか、そうした影響は語り方によって違うのか、といったことを調べています。差があるのならばそうした点を考慮してクチコミマーケティングを行う必要が出てくるからです。またクチコミは物語形式で語られているということに焦点を当てた研究も進めています。

 
――そして大学教員の道へと進学されました。「教える」ということが得意だったのですか。

安藤 その後、博士課程に進み、サービス創造学部がスタートした5年前に千葉商科大学に着任しました。
広報の仕事は、取材者のリクエストに沿って、会社のこと、ブランドのこと、業界のことを、わかりやすく伝える役割ですので、物事を整理して伝えるということについては、業務を通して訓練ができていたのではないでしょうか。講義にも役立っているのではないかと思っています。
また会社では、年次が進むにつれて、職場の後輩たちを指導するという場面もありましたので、そうした経験も、大学教育に役立っていると思います。ただ、学校と会社は性質が違いますし、立場も、年齢の差も違いますので、同じようにはいきません(笑)。会社での仕事がそうであったように、トライアンドエラーでよりよい教育方法を模索する日々です。

 

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