千葉商科大学サービス創造学部が、2015年6月、経済産業省の平成27年度「産学連携サービス経営人材育成事業」に採択された。2009年に開設して以来、学部の公式サポーター企業56社と連携し、日本のサービス産業を担う人材を輩出してきた同学部。政府が掲げる施策の先行事例として注目されている同学部の吉田優治学部長に、この事業に関する展望を聞いた。


経済産業省の「サービス経営人材育成事業」に採択

経済産業省はサービス経営人材育成事業を推進しており、既報の通り、私たちの学部は昨年そのモデル学部としてご指名をいただいております。今年度、経済産業省は「産学連携サービス経営人材育成事業」の実施を決定しました。これは、サービス産業の活性化に向け、次代の経営人材・マネジメント人材を育成する専門的・実践的な教育プログラムを産業界と連携して開発する大学に、3年間にわたって助成を行うというものです。67件あった申請のうち、17件のなかに私たちの学部のアイデアが選ばれました。
 
サービス創造学部が実施しようとしているのは、「インキャンパス・サービスビジネス・ラーニング」。同学部の公式サポーター企業、56社にご協力いただきながら、サービス経営に資する人材を育成するという教育システムです。企業の方々には大学キャンパスでリアルなビジネスを展開していただき、学生たちはそのサービスをともに学んで、企業と一緒にサービスを創造していく。学外で産学連携を行ったり、インターシップに出たりしなくても、学生たちは大学にいながら直接ビジネスを学ぶことができるのです。これを呼び水に、アクティブ・ラーニングのさらにその先を行った学習モデルを展開していきたいと思っています。
 


2つのプログラムから成る事業

具体的には、「The University HUB & DININGプロジェクト」と、「キャンパスマーケットプロジェクト」の2つのプログラムから成り立たせるつもりです。
「The University HUB & DININGプロジェクト」では、今年5月にオープンした「The University DINING(学食)」と、その隣に建つ瑞穂会館をリノベーションして今年度開館予定の「The University HUB(複合施設)」を使って、リアルビジネスラーニングを行いたいと思っています。
事業展開は、「フードサービス」、「清掃」、「HUB」と、3つのチームに分けて行います。たとえば、DININGのプロデュースを手がけ、世界一の朝食「bills」の運営で知られる「トランジットジェネラルオフィス」をはじめ、内部の清掃を担当している「ALSOK」、「ぴあ」などの企業と一緒に新しい価値を創造しながら、構築していくそのプロセスを学びます。また、DININGにかかわった第一線のクリエイターたちをボードメンバーとしてお迎えし、3か月に1度程度、学生たちがアドバイスを受ける機会も設けたいと思っています。さらには、海外の先進的な「HUB & DINING」を学ぶために、教職員を4人ほど視察に出したいとも思っています。
 


学生たちがリアルな現場を学ぶ「キャンパスマーケットプロジェクト」

一方、秋学期からスタート予定の「キャンパスマーケットプロジェクト」は、「資生堂」と「ぴあ」などを中心に展開します。今、各企業は、若い世代のマーケットへのアプローチに、試行錯誤している状況です。そこで、公式サポーター企業が学部内の学生たち800人を対象としてマーケティングを行い、一方、学部の学生たちは企業がどのような調査をしているのかをリアルに学ぶ。学生と企業を結びつけることで、Win-Winの関係構築ができるのではないかと期待しています。
 
先日、公式サポーター企業の方々に集まっていただき、「大人や企業が考えるほど若者が関心を寄せないサービスについての研究会」の第1回を実施しました。各企業が行っている若者マーケットに対する取り組みについて紹介しあってみると、若者マーケットが多様化していて、大人や企業が若者のことを十分に理解できていないことがわかりました。
その理由としては、SNSなどの普及で、若者同士が直接、リアルな情報交換を積極的にし出したことも挙げられると思います。もちろん、若者の一番近い場所にいる私たちでも、彼らを本当に理解できているのかという疑問もあります。この研究会は、学術的な研究成果を発表するところではなく、企業と教職員各々が若者について分析しあったり、意見を交換したりする場にしたいと思っています。今後も定期的に開催していく予定です。
 
教育に関するさまざまな取り組みを可能にしているのは、教職員たちの協力があるからこそだと思っています。伝統的な教職員を集めているだけでは、多様な教育に対応することができません。今後、専門的研究者であるリサーチ教員に加え、アクティブ・ラーニングを指導するプロジェクト型教員、企業をはじめ学部との連携を行うリエゾン型教員、それら全体を管理するアドミニストレート型教員など、教員たちの役割についても考えていきたいと思っています。
 


学生たちに求めること

サービス創造学部の教育は、「学問から学ぶ」「企業から学ぶ」「活動から学ぶ」の3つの学びが特徴です。今回の施策は、これら3つの学びを充実させていくという学部の方針に合っていると思っています。
その一方で、学生たちには、学問から学ぶことも積極的に取り入れてほしいと願っています。というのも、ものを見る視点、俯瞰して考える発想などの基本は、学問から学ぶものだからです。時々、活動だけに注力してしまう学生がいるのですが、それは表面的なことを学んでいるに過ぎません。私たちがここまで教育をつくり上げてくることができたのも、あらゆる研究を元に試行錯誤してきた結果だと思っています。
 


サービス人材育成をさらに尖らせたい!

従来、大学は個人学習でしたが、私たちの学部では組織学習を強化していきたいと思っています。大学を卒業し、組織のなかで仕事をしていくことを考えると、大学でも組織で活動をしながら学んでいくことが極めて重要だといえるからです。
キャンパスのなかでのリアルビジネスラーニングという発想は、世界広しといえども、サービス創造学部しかありません。日本全体の大学教育はもちろん、海外の大学にもこうした考えを広めていきたいと思っています。
モデル校として注目されていることもあり、採択された17の大学のなかで、サービス創造学部はひとつ抜きに出ていないといけない、つまり、日本の大学のサービス人材育成の先頭を走り続けることがわれわれの使命だと感じています。
学部設立7年目で、政府の助成事業を受けることができるようになったというのは大変喜ばしいこと。全国のサービス人材育成をさらに尖らせていきたいと思っています。これからもっと大きなうねりをつくりますよ!
 
 

サービス経営学、50大学で 京大院に専門課程
 

 
 

<プロフィール>

吉田 優治(よしだ・ゆうじ)

000790専門:経営管理論・経営教育論・サービス創造論

1987年青山学院大学大学院経営学研究科博士課程修了。同年、稚内北星学園短期大学経営情報学科専任講師。1989年千葉商科大学商経学部専任講師に就任、助教授、教授を経て、2009年新設の「サービス創造学部」初代学部長・教授に就任、現在に至る。アメリカ経営学会・経営教育部会日本担当理事、2013年8月より全国ビジネス系大学教育会議会長。アメリカ経営学会よりアワード(2001~2008年)、韓国経営教育学会より学術賞(2009年)、日本マネジメント学会から国際貢献表彰(2013年)など。2000年ボストン日本人研究者交流会(Boston Japanese Researchers Forum)設立。