2014年12月22日、群馬県立桐生南高校で、千葉商科大学サービス創造学部との共同企画による第2回「サービス創造熱血講座」が開催された。本講座は、キャリア教育の一環として、後輩たちが未来を創造するきっかけにしてほしいと、同高校野球部時代の先輩・後輩であり、現在は千葉商科大学サービス創造学部でともに特命教授を務める佐瀬守男氏と荒木重雄氏の提案をきっかけに実現したもの。荒木氏に続き、第2回目の講師を務めたのは、株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティング代表取締役で、プロ野球の独立リーグ「BCリーグ」を運営している村山哲二氏。「地域と地域の子供たちのために」とBCリーグを運営している村山氏が語る「社会貢献のためにすべきこと」とは。
劣等生だった高校生、野球少年の転換期
最初に皆さんに断っておきますが、僕は成功者ではありません。成功者といえば、桐生南高校のOBで僕の野球界の一番尊敬する若手のリーダーである侍ジャパンの担当、荒木重雄氏が筆頭に上げられますが、僕は彼よりほど遠い実績しか残していない人間です。ただし、現在50歳ながら、気持ちは君たちに負けないくらいの情熱を持っています。
僕は高校生の頃、劣等生でした。新潟県立柏崎高校の野球部に所属し、レギュラーで5番、ファーストを守っていました。柏崎高校は進学校だったのですが、一番ビリで入学したので、成績はからっきしよくありませんでした。
実は、高校2年生の秋、僕は一度だけ両親を泣かせたことがあります。
チームメートと猛練習を重ね、出場した県大会であと1試合勝てば北信越大会の出場権を得られるところまで来ていました。北信越大会出場をかけた1週間後の大切な試合は、高校の2学期の中間試験と重なっていました。監督から「君たちがこの北信越大会に出場を決めたら、中間試験は免除してやる」と言われ、僕たち野球部全員は、勉強すべきか、それとも一生懸命クラブ活動をして勝利を勝ち取るべきか、大いに悩みました。そこで僕たちは、試験勉強を一切せず、試合に勝つための練習に集中することを決め、昼夜問わず徹底的に練習しました。しかし、ベスト4を目前にして、わが柏崎高校は9回裏にサヨナラ負けを喫しました。結果、野球部全員は中間試験を受けることとなり、僕は全教科赤点。2年生の321人中317番という非常にみっともない成績となりました。その成績を見た両親が大泣きしていたことを今でも思い出します。
僕は一切優秀な人間ではありません。しかし、一生懸命進めていけば、成し遂げられることもあるということを君たちに伝えたいと思います。
教師を目指したのは高校野球の監督になるため
高校の野球部の監督になって甲子園に出たいと思っていた僕は、駒澤大学に入り、「社会科」の教員免許を取りました。高校野球の監督になるためには、まずは教員になることが必要だったからです。2年連続で教員試験にトライしましたが受からず、教師になることを諦めました。もとを正せば勉強が苦手でしたし、僕から教わる生徒は可哀想だと思ったのも理由です。
大学卒業後、車好きだったこともあり、自動車メーカーのBMW新潟販売ディーラーに入りました。そして2年連続でセールス日本一になりました。山の頂点に立った僕は、もっと高い山に登ってみたくなりました。スポーツビジネスに興味があった僕は、広告代理店「電通東日本」の中途採用に応募しました。それが32歳のことです。
電通は、ワールドカップやオリンピックなど、世界的なスポーツイベントの日本国内における放送権を独占して、日本で売ることができる会社です。採用数名のところ、1,000人近い応募があり、倍率は数百倍。何とか合格した僕は、ワールドカップと長野オリンピックの二つの運営を手伝うことになりました。ここでの経験が、自分を野球界へ導いたのです。
命ともいえる「BCリーグ憲章」
ゼロから立ち上げたBCリーグは、2007年にスタートしました。設立当初は4球団、翌年には群馬、福井が加わり6球団、2015年からは福島、埼玉を加えた8球団で運営する予定です。少しずつ数を増やしながら、現在各球団年間72試合の公式戦を行っています。
そのBCリーグで大切にしているものがひとつだけあります。僕たちは何のために野球をするのかを明確に定義した「BCリーグ憲章」です。試合前に、選手もしくはアナウンサーが4つのBCリーグ憲章を宣言してからプレーをしています。これは、BCリーグを支えてくれているすべての人たちへの約束です。
<BCリーグ憲章>
1.BCリーグは地域の子供たちの地域とともに育てることが使命である。
2.BCリーグは、常に全力のプレーを行うことにより、地域と地域の子供たちに夢を与える。
3.BCリーグは、常にフェアプレーを行うことにより、地域と地域の子供たちに夢を与える。
4.BCリーグは、野球場の内外を問わず、地域の子供たちの規範となる。
2008年、この憲章をつくるきっかけになる事件が起こりました。それは、熾烈な優勝争いの中で起きたビンボール(故意死球)合戦です。設立当初から試合後に、野球少年たちと選手たちによる野球教室を行っていたのですが、その試合の後、少年たちは怖さから逃げ出してしまいました。指導者の方々は、「地域の活性化、地域のためにと言っているが、子供たちにとってあなた方のプレーは害だ」と言って帰ってしまいました。
充実したサラリーマン生活を投げ打ち、命をかけてやってきたのに、なぜこんなことになってしまったんだろうと僕は半年間悩みました。そして結論は、自分自身にあるんだと気づきました。
6球団の社長と僕で、2カ月かけてこの憲章をつくりました。そしてすべての軸をBCリーグ憲章に置き、僕がすべての判断基準となりました。僕たちは「地域と地域の子供たちの見本となるような野球人でいよう」「もし失敗したら野球をきっぱり諦めよう」と決意し、まい進しています。
目標を達成する日を明確に決める
僕の父と母は、体育の教師と保育士を40年間やってきました。お正月に、教え子とお酒を酌み交わす姿を見た時に、両親は教育を通じて社会に貢献しているのだと感じました。いつかこんな風になりたい、近づきたいと思うようになりました。
そこで出会ったのが、プロ野球独立リーグでした。地域の人や町の人たちから「ありがとう」「元気になった」「勇気をもらえた」と言ってもらえる。そして、この事業を通じて地域社会に貢献することができる、人生をかけてやりたいことに出会えた僕は本当にハッピーです。
高校生の君たちは、やろうと思えば何だって叶えられる年齢。ですから、自分の可能性を閉じてしまうことは絶対にしてはいけません。自分の可能性を広げるためにはどうすればよいか。それは、周りにいらっしゃる先生方やご両親を“利用”すること。先生や両親は、君たちが社会に巣立って社会に貢献する人材を育てるための道具です。両親や教師を通じて自分自身を成長させてほしいと思います。
まずは目標を立てることから始めてみてください。一番大事なのは、叶える日を明確に決めておくこと。自分が目標を達成するのにどのくらいの時間がかかるのか、自分がその目標を達成するために何が足りないのかが明確に分かってきます。そうしたら、達成できない要因を少しずつ消していくのです。自分が本当にやりたいこと、そして社会のためにやりたいこと、自分自身が社会のためにできること、を考え、小さなことからでいいので始めてほしいと思います。
<プロフィール>
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強い意志と諦めない気持ち。/荒木重雄
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サービス創造熱血講座 これまでの開催内容と今後の予定
<第1回>11月28日(金)「スポーツビジネスを創る(1)」
講師:荒木 重雄氏
千葉商科大学サービス創造学部特命教授。日本アイ・ビー・エム株式会社、ティー・システムズジャパン株式会社ドイツテレコムグループの代表取締役を経て、2005年に千葉ロッテマリーンズに企画広報部長に就任。事業部長、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事。球団退団後は株式会社スポーツマーケティングラボラトリーを設立。2013年4月、一般社団法人日本野球機構(NPB) 特別参与(侍ジャパン事業戦略担当)。2014年11月、NPBとプロ野球12球団による初の共同事業会社、株式会社NPBエンタープライズの設立に伴い執行役員 事業担当に就任。同時に株式会社ホットランドの取締役も務める。
<第3回>2015年1月6日(火)「映画を創る」
講師:草野 翔吾氏
桐生出身の若手映画監督。大学在学中に制作した『Mogera Wogura』が上映館のレイトショー観客動員記録を樹立。2012年公開の長編映画『からっぽ』は、第4回沖縄国際映画祭パノラマスクリーニング部門、第27回高崎映画祭“若手監督たちの現在”に選出。ミュージックビデオやCMなど、幅広い分野の映像を手がける。
<第4回>2015年2月26日(木)「音楽を創る」
講師:近藤 薫氏
1999年、ロックバンド「スィートショップ」のボーカリストとしてメジャーデビュー。2004年よりソロ活動。現在はLive活動を全国で展開しながら、ドラマやアニメの主題歌、人気アイドルグループなど幅広いアーティストに楽曲提供するなど、数々のヒット曲を生み出している。