千葉商科大学サービス創造学部
コミュニティカフェ・プロジェクト
「CAFE 50′s DINER」

2018年1月17、18日に、千葉商科大学のキャンパス内に、1950年代のアメリカンレトロスタイルのカフェが出現した。「CAFE 50′s DINER」と題したこのカフェの企画・運営を行ったのは、同大サービス創造学部のコミュニティカフェ・プロジェクトのメンバー25人。学生たちはどのような狙いでこのカフェを運営したのか。

 


エシカル消費を身近にとらえる

コミュニティカフェ・プロジェクトは、「学内外の交流が生まれる場」をつくりたいという思いで活動している同学部の正課カリキュラム。企画・運営のほか、商品開発、仕入れ、提供販売、売上管理など、実践しながら新しいサービス創造をしている。今年度は、7月に「Café Green Garden」を開催。そして、準備期間わずか3カ月で、「CAFE 50′s DINER」を企画した。中でも今回は、環境や社会に配慮したサービスや製品を選択して消費する「エシカル消費」の理念を普及すべく、フェアトレードコーヒーを提供したり、カフェの一角には訪れた方たちにも知ってもらうため「エシカル消費」「フェアトレード」(開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立をめざす貿易の仕組み)について分かりやすく解説したブースを設けたりした。
担当教員の滝澤淳浩准教授は、「人間、自然、動物などが継続的に生活できる環境をつくっていこうという“SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)”の中にはいろいろな課題がありますが、それを達成するひとつにエシカル消費があります。こうした問題を身近に考えて一人ひとりが努力をすれば、快適に住むことができる方法がある。秋学期は、こうした社会の取り組みをしっかりと学び、それに関連付けて活動をしようということになりました」と狙いを話す。
そのために、プロジェクトメンバーは、エシカル協会の代表理事末吉里花さんの著書『はじめてのエシカル』を読んだり、同協会のセミナーを視聴したりしたほか、「フェアトレード」の団体からレクチャーを受けたり、イオン株式会社に足を運び社会貢献や商品の戦略についてなどの話を聞いたりしながら、グローバルな視点で企画を進めてきた。
 
 

レジ近くには、エシカル消費とフェアトレードを分かりやすく説明したブースを設けた。
 

 
 

 


2年生を中心に、それぞれが成長

夏休み中、フード班、ドリンク班、レイアウト・デザイン班、企画・広報班、会計班など各班でそれぞれフィールドワークを行い、夏休み明けに今回のテーマについてのプレゼンテーションを行ったが難航。ダイナーの黄金時代だった1950年代の音楽や映画、ファッションを楽しむ「アメリカンレトロ」にテーマが決まったのは10月に入ってからのことだった。2年生リーダーの金澤諒大くんは、「若者たちの間でレトロが流行っているので、洋風のレトロな空間をつくりたいと思いました。この時代は、ダイナー、つまり大衆食堂が増えた時期。若者たちが流行りの音楽を聴き、食べながら語らう場所だったので、僕らの企画でその時代を復活させたいと思ったんです」とテーマにした理由を話す。
実際に、その当時を彷彿とさせるような装飾や家具、そしてジュークボックスなども会場内に設置。これら装飾の一部は、同学部の公式サポーター企業「MOONEYES」に協力を仰ぎ、用意できたという。
2年生の副リーダー兼レイアウト・デザイン班の代表を務めた菊地真由さんは、「大学の備品に似合うテーブルと椅子があったのですが、簡単に借りることができないことも分かり、予算が限られている中でアメリカンダイナーをどうやって演出するのかという部分が非常に難しかったです。今回の企画で初めて企業に直接交渉をしに行き、思うようにならないと思っていましたが、熱意をもって接すれば成果が伴うことを実感しました」と語る。
また、初めてリーダー・副リーダーを務めた2年生のふたりは、「全体としては、メンバー一人ひとりの持っている能力が高くて、想像以上の出来栄えになったと思います。しかし、個人としては、本来リーダーは自分の考えを伝えて、それを周りに考えてもらうことが役目だと思っていますが、それが全くできていなかった。今後は、第三者の意見を聞きながらも自分の意見を述べるという部分もしっかり取り組んでいきたいと思います」(金澤くん)、「そもそも人前で話すことが苦手でした。でも途中から、各班と連携を取って、裏の部分をサポートすることも大事だと感じるようになりました。縁の下の力持ちではないですが結果的には、代表の金澤くんを裏で支えることができたかなと思います」(菊地さん)と、それぞれ自身の成長について述べた。
 
 

秋学期の企画をとりまとめた2年生代表の金澤諒大くん(右)、副代表の菊地真由さん(左)ともに、石井泰幸教授の企業論の講義で、「自分の考えをどのようにうまくみんなに伝えるか、どのように全体を動かしていくかという部分で非常に勉強になった」と語った。

 
 

レイアウト・デザイン班で、ポスターやブラックボードアートなどを手掛けたのは、中鉢みなみさん(同2年)。もともと絵を描くことが好きで、高校までは美術部、その後はパソコンのソフトを使い独学でイラストを描いてきた。それでも、「ポスターづくりは大変だった」と振り返る。「ポスターは、企画の目玉が何かダイレクトに伝わるもの。うまく表現しないといけないという責任感が強かったです。アメリカンレトロの雰囲気は好きで資料も集めていたこともあり、趣味が生きた感じです。また、ブラックボードアートも春学期のカフェの企画で初めてトライしましたが、みんなが“可愛い”と反応してくれるのが楽しかった。来年もできればイラストを手掛けたいと思っています。このプロジェクトでポスターを手掛けたことをきっかけに、他の企画でも頼まれるようになりました。悩んでいる時間も楽しいですし、もっと自分の地力を上げていきたいと思っています」と手応えを感じたようだ。
 
 

 


3年生が2年生のサポート役に

春学期は3年生を中心に動いた本プロジェクトだったが、秋学期は来年を踏まえ2年生を中心として行われた。2年生を支えた3年生のメンバーは後輩たちの活躍をどのように感じたのだろうか。
春学期のプロジェクトでは中心となったプロジェクト代表の河津雄太くんは、「教えることの難しさを痛感しました。春はいっぱいいっぱいになってしまって各班を見ることができませんでしたが、今回は自分の立ち位置も変わり、2年生に同じ失敗をしてほしくないと思い、いろいろなアドバイスをしましたし、コミュニケーションを積極的にとるようにしました。結果的には、2年生に花をもたせることができたのではないかと思います」と話す。
副代表の野口義彦くんは、「今回、2年生がメインということで分からないことも多かったと思います。幹部の人たちと、その他のメンバーとの間に、意見の食い違いなどもあって、それをうまくまとめるのが3年生の役割だと思い、今回は活動していました。ですが、やはり、伝え方や教え方は難しかったですし、一番学んだ部分だと思っています」と語った。
今年で同プロジェクトを“卒業”する形になるふたりだが、この経験をどのように生かしていきたいと感じるか問うと、「これからの就職活動でどこの企業の面接官からも大学で一番何に力を入れてきたかということを聞かれると思います。僕にとっては、このプロジェクトで活動してきたことを話そうと思っています。代表という立場で、メンバーのモチベーションをどのように上げるか、どのように運営していくか、第一に考えて行動してきました。自分の中での学びになったことなので、社会に出ても、生かせるように頑張りたいです」(河津くん)、「このプロジェクトでは、人と人が繋がる場所をつくることができました。春学期のカフェの時も、親子が毎日のように来てくれたので、何かサービスをしたいという思いが湧き出て、自分で撮影した写真を印刷して写真立てに写真を入れてプレゼントをしたら、お母さんがすごく喜んでくれました。経験を通して、将来は人を喜ばせるような職業につきたいという思いが強くなりました」(野口くん)とそれぞれ今後の抱負を語った。
 
 

3年生代表の河津雄太くん(右)と副代表の野口義彦くん(左)。このプロジェクトの魅力について、「ベースはあるとはいえ、その中で自分たちがどのようなカフェを運営したいのか自由にできる部分が魅力。難しいけれど、やりがいもあって、自分たちの考えが表現できる場だと思っています」(河津くん)、「コミュニティカフェなので、自分たちが間に入ってお客さんを交流させることが目的。去年よりも地域の方が増えて、コミュニティの部分も強化できてきていると思っています。地域の方も多く来てくださるようになりましたし、地域に向けて活動できていることも魅力だと思います」(野口くん)と語る。

 
 

滝澤准教授は、「サービス創造学部なので、教員は新しいサービスをつくり出せる人材を育成しなければならないですし、学生はそれを学びにこの大学に来ているのだから、新しいサービスを提供することを前提に1年間活動してきました。その結果として、彼らから自分たちの生まれる前の1950年代のアメリカンダイナーをコンセプトに運営したいという案が上がってきました。インターネットで調べたり、図書館に行って本を探したり、Youtubeを見たり、ご両親に話を聞いてみたりと、彼らなりに情報を集めて準備を進めてきました。それと同時に、いまの社会背景を知った上でのサービス創造が必要と考え、今回エシカル消費について学び、取り入れてきました。自分のことだけを考えていては駄目で、周りのことも考えた行動がとれる優しい人になって欲しいですし、それらを他の人たちにも話しをして広めていけるようになって欲しいと思っています。また、プロジェクト活動では、カフェの経営ということも学んでいます。経営学では、組織をうまく動かすためには、参加者全員が共通の目的をもっていること、お互いに協力する意思をもっていること、円滑なコミュニケーションが取れること、が大事だとされています。このプロジェクトを通し、この3つが成り立たないと成果は現れないということが、それぞれ実践によって学ぶことができたのではないでしょうか。みんなひとりでは何もできなくて、メンバー25人みんなでつくり上げていくことの大切さを学ぶことができたのではないかと思います」と学生たちをねぎらった。
 
「コーヒーとマフィンが美味しい」「ハンバーガーが美味しい」など、教職員や学生、地域の方たちからも好意的な意見も聞くことができた「CAFE 50′s DINER」。1950年代のアメリカのダイナーを再現したレトロでポップな明るい空間に、多くの笑い声があった。
 
 

4年生でプロジェクトに参加している小谷達也くんは、「大学入学時よりも、確実に成長していると実感しています。たとえば企業の方の話も、1、2年の時には理解できなかったことが、カフェを運営する立場になって共感することができるようになりましたし、人間関係や組織の考え方も勉強になりました。自分は卒業をしたら、不動産業界で営業職に就きますが、お客様と売る側がお互い納得できるような落としどころを見つけなければならないと、カフェを通じて学ぶことができました。後輩たちには、カフェ以外の活動にも目標や目的を持って行動してほしいと思います。しっかり意識することで自分の力になりますから」と後輩たちへのメッセージも送った。

 
 

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【コミュニティカフェ・プロジェクト「CAFE 50′s DINER」Photo Album】

客席のスペースには、アメリカンレトロを代表する映画『アメリカン・グラフィティ』がスクリーンで映し出されたり、ジュークボックスやブリキの看板、アメリカの国旗など、アメリカンダイナーをイメージした装飾が行われていた。
プロジェクトメンバーの中鉢みなみさん(同2年)が手掛けたポスター。アメリカンダイナーをイメージし、コーラとハンバーガーをデザインした。
ポップなブラックボードアートも中鉢さんが手掛けた。
キャラメルポップコーンは無料で提供。このポップコーンもプロジェクトメンバーのお手製だ。
同学部の公式サポーター企業で、自動車パーツ・用品ブランド「MOONEYES」に協力を仰ぎ、今回の企画のために貸し出しをしてもらったジュークボックス。
ハンバーガーを提供する中鉢さん(左)と、コーヒーを手にする小林健太くん(同2年/右)。中鉢さんは、「プロジェクト活動で団体行動を学びましたが、みんなで同じ方向に向かうのは難しいと感じました」と話す。
メニューは、フェアトレードコーヒーのほか、ホットレモネード、コーラの飲み物3種類と、ハンバーガー、マフィン、クッキー、パウンドケーキの食べ物4種類。初日の昼過ぎには食べ物は完売した。
ハワイ出身でサービス創造学部のケビン・ミラー専任講師(右)も「ハンバーガーもクッキーも美味しい!」と太鼓判。やはりコーラが似合う!
昼休みだけでなく、授業の合間にも長蛇の列ができて、大盛況だ。
コーヒーづくりを行うプロジェクトメンバー。次から次へと注文が入り、大忙しな様子だ。
学生たちも飲食スペースでくつろぐ。キャラメルポップコーンを片手に笑顔を見せる。
プロジェクトメンバーの岡田未来さん(同2年)は、「企画書を書いたり、企業と交渉したり、多くの学びがありました。今回の装飾は自信作です。来年度のオープンキャンパスでの学部ブースでもハワイアンカフェと交互でオールドアメリカンダイナーもいいかなと思ってます」とほっとした表情を見せた。