千葉商科大学サービス創造学部
千葉ロッテ・プロジェクト『下克上!鷗録』出版企画
2017年7月26日、『千葉ロッテマリーンズ語録集 下克上! 鷗録 (アスリートの言葉シリーズ #005)』(千葉ロッテマリーンズ編著)がセブン&アイ出版より発売された。マリーンズ戦士たちの“魂の言葉”を集めたこの書籍の制作に、千葉商科大学サービス創造学部の千葉ロッテ・プロジェクトの学生たちがかかわった。セブン&アイ出版書籍編集部編集長の石塚明夫氏と、企画・編集を担当した株式会社カウボーイソングの取締役・プロデューサーの岩川悟氏に、制作の裏側について聞いた。
- セブン&アイ出版編集グループ書籍編集部編集長の石塚明夫氏と、企画・編集を担当した株式会社カウボーイソングの取締役・プロデューサーの岩川悟氏が手掛けた「アスリートの言葉シリーズ」。『下剋上! 鷗録』の千葉ロッテマリーンズほか、広島東洋カープ、東京ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツなどの選手語録集を発売している。
書籍制作・営業活動を学生が体験
千葉ロッテ・プロジェクトは、同学部のスポーツビジネス・プロジェクトのひとつ。プロ野球球団の「千葉ロッテマリーンズ」と学生が連携し、球団を活性化させるために、さまざまな取り組みに挑戦している。毎年、プロジェクトのメンバーが、同大学のマッチデーとして開催されるホームゲームを盛り上げるために企画・運営をしているのもその一環だ。
企画・編集担当の岩川氏は、千葉ロッテ・プロジェクトの学生たちが活動する様子を、プロジェクト担当教員の中村聡宏専任講師によるSNS投稿を通じてしばしば目にしていた。「あの学生たちの協力を得ることは出来ないか」と打診したのがきっかけとなり、プロジェクトメンバーが編集業務から書店営業まで、この書籍『下克上!鷗録』の出版・販売に全面的にかかわることになった。
本書はセブン&アイ出版から出版されているアスリートの言葉シリーズのひとつで、昨年出版した広島東洋カープの語録集『ぶちええ言葉』のヒットを受け、今年は、千葉ロッテマリーンズの語録集『下克上! 鷗録』をはじめとする4冊が同時刊行となった(※)。
石塚氏と岩川氏の2人が授業に訪れ、出版の流れを説明する講義を行い、学生たちはゴールデンウィーク直前から本格的に参画。その後、学生たちは3~4人のチームに分かれ、担当を任された選手の名言を新聞や雑誌、インターネットなどから収集。全員で50以上のタイトル案を提案し、選手名鑑データを作成した。さらには、表紙チェック、全ページの校正など、さまざまな編集業務に携わった。
一連の活動の中でも、石塚氏と岩川氏が口をそろえて絶賛したのが学生たちの書店営業だ。セールスシート(営業用チラシ)を学生自らが作成し、大学のある市川駅周辺と、千葉ロッテの本拠地である海浜幕張駅と大学がある市川市内の書店に、自ら出向いて営業を行った。大型書店でも20〜30冊の注文がとれれば上出来と言われる中、なんと一部書店では150冊の注文も取りつけたというから驚きだ。
石塚氏は「僕らもこのプロジェクトに声をかけさせていただきながら、若い子に何ができるんだろうと、どこかで先入観をもっていたのかもしれません。しかし、そろそろ書店営業を始めなくては、というタイミングで、学生たちの方から営業用のセールスシートが出来上がってきました。さらに、大量受注の結果を持ってきた行動力にも感心。出版の仕事は、どうしても“モノをつくる”部分に重きをおいてしまいがちですが、売上を立てていく上では、実はサービスをどう提供するかといったところが重要で、それが今の出版業界全体に足りない部分なのです。大事なのは行動力で、その一番大事なところを学生たちに改めて見せつけられた、というのが正直な感想です」と高く評価する。一方、岩川氏も「4月にスタートして顔合わせして、という大学の授業スケジュールに対して、私たちが希望する7月上旬校了という出版スケジュールは、学生さんたちにとってかなり厳しかったはず。とくに選手語録探しのように、どういう言葉が読者に響くか、という編集業務は経験がモノをいうだけに、学生さんにとってはかなり難しく感じたのではないかと思います。でも書店営業に関しては驚かされました。出版不況と言われるこの時代における書籍出版の一番大事なプロセスは、企画の良し悪しは当然のこと、“つくった後”だと思っています。つまり、どれだけ営業やPRができるかが勝負どころ。そういう意味では、普通の出版社がなかなかできない大量受注を学生たちがやってのけた。みんなが自主的に活動をしてくれたことがすごくうれしかったですね」と称賛した。
初めての経験は、学生たちの自信に
この企画を通し、2人は学生たちにどのようなことを感じてほしかったのだろうか。
「世の中で働いてお金をもらう以上、数字で評価されるのは当たり前のことです。そして、数字で評価されることは自分が評価されることなんですよね。仕事を一生懸命やればやるほど、数字を追い求めるようになっていくものですが、学生さんたちが社会に出る前に、数字の喜びに味を占めることができたのはすごくいい経験になったと思います。若い時に苦労した気持ちを忘れずに持ち続けていると、必ず開花する人になれるのではないかと思います」と石塚氏。一方、岩川氏は、「僕自身、今は企画・編集を行っていますが、これまでさまざまな業種でモノを売る仕事をしてきました。モノが売れるって本当に快感なんですよね。その快感を味わうためには、ひたすら何かに打ち込むことが大事だと思うんです。結局、場数を多く踏んだ人こそ、いい結果を残すことができますから」とこれから社会に出る学生たちにエールを送った。
プロジェクトリーダーの上杉茉絢さん(サービス創造学部3年)は、「まず、私たちが手にする本をつくる側の苦労が、本当に大変なことが分かりました。書店営業についてはとにかく初めてなので緊張しましたが、そもそもどのくらいの注文が一般的なのかが分かっていなかったので、版元の方から話を伺って初めてすごい数字だったんだと実感が湧きました。大学生がかかわったことが強みになったからだと思いますが、自分たちの自信につながりました」と話す。「私たちにとってはマッチデーの企画も大事です。でも、マッチデーだけをやっているプロジェクトではないので、新しいことができたのはよかったです。本が出来上がって、自分たち全員の名前が奥付に書かれていたのもすごくうれしかったですし、本当にいい経験をさせていただきました。将来、どういう道に進んだらよいか定まってはいないのですが、今回の経験から行動力の大事さを改めて痛感しました」と胸を張った。
また、中村専任講師は、「ひとつものをつくってそれを売るというプロセスを、一貫して学ぶことができたのはいい機会になったと思っています。編集の作業に関しては、制作スケジュールの都合上、丁寧に体験させてあげられなかったことは我々の反省点ですが、タイトルや表紙が決まりゲラが上がってきて、と段階が進むに連れて、みんなにとって自分事になっていったように感じました。そして、学生たちの中に、自分たちがかかわってきたものが形になったから絶対に売りたいという思いと責任感が芽生えた結果が、書店営業にもつながったんだと感じています。プロジェクト活動の目的は、球団をどう活性化させるかですが、今回の企画は、学生たちにとっても今後いろいろな企画を考えるための大きなヒントになったのではないでしょうか。また、書類を書くことが苦手な学生が多いのですが、今回、セールスシートや書店への依頼状などを自分たちでつくってみて、書類の重要性をあらためて理解できたと思います。いくらいいアイデアが浮かんでも、書類化することができなければ、ビジネスコミュニケーションとしては不十分ですから。そういう意味でもいい学びの機会になったのではないかと思っています」と学生たちをねぎらった。
千葉ロッテ・プロジェクト「千葉商科大学マッチデー」は8月31日(木)開催。球場外にブースを設置し、学生たちの思いが詰まった書籍の販売も行われる。
担当者編集者からのおすすめポイント
「球団から公式に承認をいただいて、現支配下登録全選手、一軍の監督、コーチ、二軍監督の言葉を紹介しています。当然有名な選手ですといろいろなところで言葉を耳にしたり、目にしたりすることができますが、とくに二軍のこれから出てくる選手や試合に出ていない選手らがどのようなことを考えているのかなど知ることができるという意味でも、非常に貴重な資料になると思います。」(岩川氏)
「本書は、千葉を中心としたセブン-イレブンでも展開しているというところが最大のポイントです。セブン-イレブンは、PB商品などで“地域に根差したモノづくり”をめざしています。書店が減っている中で、我々としては、24時間、誰でも利用できる場所で、地域にフィットした書籍を販売したい。そのような中で、地元・千葉の大学生が絡んで制作に携わってくれたことは非常に意味があります。ロッテファンはもちろん、地域の方々に手に取ってもらえたらうれしいです。」(石塚氏)
(※)
千葉ロッテマリーンズの語録集『下克上! 鷗録』のほか、
『広島東洋カープ語録集 ぶちええ言葉Part.2(アスリートの言葉シリーズ♯2)』
『読売巨人軍語録集 闘魂録(アスリートの言葉シリーズ♯3)』
『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書(アスリートの言葉シリーズ♯4)』
の4冊がセブン&アイ出版より同時刊行した。