千葉商科大学サービス創造学部
「オタクマーケティング」特別講座
オタク文化は、近年、新しい日本文化として国内外から注目され、企業、行政なども彼らを活用したマーケティングを行っている。千葉商科大学サービス創造学部では、このオタクビジネスに着目し、「オタクマーケティング」(担当:鶴見麻衣客員講師)と題した特別講座を開講。この日は、東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター戦略企画部門の木下忠准教授、合同会社エドエックス・ラボの毛利伸也氏、株式会社山崎フィールドデザイン研究所代表取締役の山崎泰嗣氏が登壇し、アイドル・アニメなどの事例を挙げながら、オタクビジネスとは何かを語った。
AKBはなぜ国民的アイドルになったのか
オタクとは特定分野において強い興味を示し、現実と空想の狭間で妄想している人と考えられる。木下准教授が話したテーマは、「AKBに学ぶオタクマーケティング」。
「AKB48」は、秋元康氏プロデュースのもと、2005年12月8日に、「会いにいけるアイドル」として誕生したアイドルグループだ。ブレイクしたきっかけは、2009年の第1回AKB総選挙のこと。選挙後に発売されるAKB48のシングルCDを歌うメンバーやポジションなどをファンが投票して決めるこのイベントは、ここ数年、新聞やニュースで大きく取り上げられ注目を集めている。
とはいえ、“クラスで3番目に可愛い女子”を集めたAKB48がなぜ国民的なアイドルとなったのか。木下准教授はその理由を、「ビジネスにおいて重要視すべき3つの要素QCD(Quality=品質、Cost=価格、Delivery=納期)が優れていたから」と明かす。「メジャーアイドル並みのクオリティであり、地下アイドル並みの近さ」(※)だからこそ、割安感があった。そして、秋葉原に専用劇場をつくり毎日公演を行うことで、ファンの要望をいち早く取り入れることができたというわけだ。
さらに、自社の戦略に生かす3C分析(「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の)の観点でも、オタクにとってタイムリーなアイドルだった。AKBが登場した当時、アイドル界を席捲していたのは「モーニング娘。」(競合)。ところが、スキャンダルが頻発したことで、ピュアなオタクたち(市場)は、モー娘。に失望したと悟る。そこでAKBは恋愛禁止条例の強化を行った(自社)。これによりオタクとの信頼関係を強固なものとし、モー娘。のファンが一気に流入してきたという。今でこそ緩和しているものの、当時は恋愛発覚即クビ、という厳しい規律があった。AKBはそうしたオタクたちに向けて徹底的にサービスをつくり込んだことが、ビジネスとして成功した要因と木下准教授は分析する。好奇心旺盛なオタクを製品ライフサイクルにおける「革新者」としてとらえ、「彼らの獲得はどんなビジネスにおいても成功の鍵」と述べた。
- 発足当初のAKB48の「革新者」は秋葉原にいるベテランのアイドルオタクだった。そのため、AKB48の48は、ファンの平均年齢とも言われていたという。「オタクの顔と名前をメンバーたちが覚え顧客関係性を深めていたことも成功の要因でしょう」と木下忠准教授。
※「AKB48がヒットした5つの秘密」(角川書店)より
音楽業界もアニメ市場へ参入
大手音楽会社に在籍した経歴を持つ毛利氏は、「音楽業界におけるオタクマーケティング」について、海外でも人気のアニメ市場が注目のビジネスだと持論を展開した。音楽業界でもアニメの楽曲を出すだけでCDの売上が伸びたり、市場規模18兆円以上のパチンコ・スロット業界もアニメとコラボしたりしていることを例に挙げ、「純粋な音楽だけでビジネスをしていくには限界があり、アニメなど他の市場を取り込むことがその業界の成長につながる」と分析。その上で、音楽業界におけるオタクマーケティングとは、「新規顧客開拓であり、新規事業開拓でもある、生き残りをかけた重要な経営戦略のひとつの要素」だと、結論づけた。
ターゲットを考えればビジネスの特性が見える
「小売・サービスマーケティングにおけるオタクマーケティング」について語ったのは、セブンイレブンなどを運営するセブンアンドホールディングスを経て、コンビニの経営コンサルタントを行っている山崎氏だ。アニメとのタイアップが加速しているパチスロ業界にも言及し、その理由を「オタクビジネスとパチスロ業界は、“集中する”という点で共通点しているから」と分析する。パチンコ、スロットの前で「お金儲けをしたい!」と夢中になる点と、オタクがテレビ画面に夢中になり妄想するところが類似しているというのだ。
「オタクを対象としたマーケティングの形は商品やサービスによって違うが、ポイントはターゲット顧客が同じであるか否かという点。各オタクビジネスのターゲット顧客がどんなものかを考えるとビジネスの特性が見えてくる」と山崎氏は語った。
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最後に、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉が大筋合意に至ったことを受け、木下准教授から「著作権侵害の非親告罪化」の話がされた。これまで著作権を侵害された人だけが起訴できたが、それ以外の人もできるような仕組みになるという。現状は、「オリジナルの著作物の収益に大きな影響を与える場合に限る」ということで、映画の海賊版販売といった悪質なケースが対象となるが、今後規制が厳しくなれば、アーティストの曲を使って踊ったり、歌ったりする動画をアップすることや、2次創作物も該当するようになるという。学生たちにも、今後の動向に注視することをうながした。
<プロフィール>
1971年生まれ。東北大学卒業後、東北大学講師、特許庁審査官を経て、現在、東北大学、国際集積エレクトロニクス研究開発センター戦略企画部門の准教授に就任。
1966年生まれ。大学卒業後、音楽事業や映画配給事業を行う「パイオニアLDC」に就職。その後、独立し、現在合同会社エドエックス・ラボの代表社員に就く。
1972年生まれ。大学卒業後、セブン&アイ・ホールディングスでコンビニのコンサルタント業務に従事。現在は、株式会社山崎フィールドデザイン研究所代表取締役。