小久保裕紀新監督率いる新生・侍ジャパン(トップチーム)が、チャイニーズタイペイ(台湾)を相手に3連勝と最高の船出を飾った。デザインを一新したユニフォームを身にまといグラウンド上を躍動する選手たち。その様子を、侍ジャパン事業戦略担当特別参与の荒木重雄氏がベンチ裏で見つめていた。侍ジャパンに寄せる想い。そして、侍ビジネスは今後どのような展開を見せるのか。

 

新生・侍ジャパンの船出

 

――台湾との親善試合は3連勝でした。この3試合を振り返って最も印象的だったことは。

荒木 台湾との3連戦を終えた小久保監督が「新生・侍ジャパンとしていいスタートを切れた」とメディアに対してコメントしました。彼のこの言葉こそが、侍ジャパンの新たな取り組みを象徴していると思います。
歴史的に振り返るとこれまでの野球日本代表は、オリンピックやワールド・ベースボール・クラシック(WBC)といった国際大会があるたびに、監督を決め、選手を選び、単発のドリームチームを結成し、大会が終わると解散することを繰り返してきました。
このたび、侍ジャパンは “野球日本代表「結束」そして「世界最強」へ!”というキャッチフレーズを掲げました。今春開催された2013WBCで、日本代表は準決勝でプエルトリコ代表に敗れ3連覇を逃しました。あの悔しさを忘れず、4年後の2017に世界最強の称号を取り戻そう。そのために、4年というスパンでチームづくりをしよう。今回の強化試合は、世界最強の座を奪還するための物語の序章として重要な意味を持っていたのです。

 

――実際に小久保監督と接してみて、どんなところに魅力を感じましたか。
荒木 当初から、新生・侍ジャパンが目指すべき理念やビジョン、あるいはビジネス面を含めた戦略に共感していただくことが重要だと考えていました。会議の席でも、私たちといつも真摯に向き合い議論に応じてくれますし、私たちが目指すべき理想像を理解してくれていると実感しています。
特に小久保監督に感謝しているのは、侍ジャパンのビジョンや目指すストーリーを私たちと共有するだけではなく、グラウンドで戦う選手たちにも同じように伝えてくださったことです。台湾との3連戦を単なる親善試合と位置付けるのではなく、「4年後の世界一を目指す、その歴史的第一歩である」と位置付けたことで、勝利を目指して真剣に戦った結果の3連勝だったと思います。平均年齢24歳の若い選手たちにとっては絶好のアピールの場になったこともあり、明るく活気があって、まとまりある非常にいいチームだったと感じました。

中長期視点のビジネス戦略

 

――大切な第一歩を踏み出すに当たり監督として抜てきされたのが、昨年まで現役で活躍していた小久保氏ということで、戦前は、指導者としての経験がないことを不安視する声も聞かれました。

荒木 私が選んだわけではなく、委員会で議論されて選ばれたわけですから、私に言われても困るのですが(笑)、心配する声があったことは認識しています。しかし私自身、監督経験の有無に関してはまったく懸念していませんでした。
というのも、日本代表監督とはいえ、これまでのように短期決戦のために結成されたチームの監督ではありません。4年後の世界一を目指すためには、短期的な結果を求めるのではなく、長期的な視点での戦力強化を見据えながら、日々のレギュラーリーグ戦を見つめ、選手たちの成長を促す役割が求められます。また、国際大会を勝ち抜くチームづくりをするということは、日ごろ対戦しない海外の相手チームを研究する力や、国際試合の経験や知見なども必要になります。そもそも野球日本代表を常設チームにするということがはじめての試みです。さまざまな背景を考えれば、あらゆる面で経験豊富な日本人監督を探すこと自体、極めて難しい課題だと言えるでしょう。
一から事業を立ち上げようとする侍プロジェクトに対して、小久保監督がビジネス戦略の面にまで好意的に協力してくださる姿勢を目の当たりにすると、既成概念にとらわれないという意味では、監督経験がないこともむしろよかったのではないかと思うほどです。

 

――小久保監督の下、約4年間の旅が始まったというわけですね。
荒木 代表チームを常設化するということは、「侍ジャパン」は解散されることなく、永続していくということ。それはある意味、新たな球団が設立されたようなものだと認識しています。ジャパンに選出された選手は、学生も含めてそれぞれチームに所属していますが、彼らには同時に、「侍ジャパン」という球団にも所属してもらっているというような気持ちでいるのです。
おかげさまで、装いも新たに台湾で踏み出した記念すべき第一歩は、日本国内でも注目していただけたようです。小久保監督が「いいスタート」と表現したように、メディアにも「新生」「初陣」「船出」といった言葉で、数多く取り上げていただきました。

 

――これは、ビジネス面にとっての「スタート」でもあると。

荒木 はい。これはグラウンドでの戦いに限った話ではありません。侍ジャパンに関わるさまざまなビジネスプロジェクトにとっても同様です。目の前の試合だけではなく4年後、さらにはその先へと続く日本の野球界があるべき姿を見据えて、新しい挑戦が始まったことを意味しています。侍ジャパンをひとつの柱に、短期的な視点だけでなく中長期的視点を持ちながらビジネスに挑戦する私たちにとっても、大きな第一歩となりました。

 

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<プロフィール>

荒木 重雄(あらき・しげお)
0007901986年日本IBM入社。国際ネットワーク事業に9年従事した後、欧米系通信会社の日本法人の要職を歴任。2005年千葉ロッテマリーンズに企画広報部長として入社。事業部長、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事する。2007年パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)の設立に伴い、同社の執行役員、取締役。2009年千葉ロッテマリーンズ退団後、株式会社スポーツマーケティングラボラトリーを設立。2013年4月より一般社団法人日本野球機構(NPB) 特別参与(侍ジャパン事業戦略担当)。これまで日本サッカー協会(JFA)広報委員、日本トップリーグ連携機構プロジェクトメンバー、文部科学省委託事業「スポーツの環境の整備に関する調査研究事業」プロジェクトメンバー、国土交通省・観光庁「スポーツ・ツーリズム推進連絡会議」委員などを歴任。千葉商科大学サービス創造学部特命教授も務める。
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