千葉商科大学サービス創造学部・桐生南高校 共同企画「サービス創造熱血講座」

群馬県桐生南高校と千葉商科大学サービス創造学部との共同企画シリーズ「サービス創造熱血講座」第8回が、2015年11月19日に開催された。この講座は、同高校野球部時代の先輩・後輩であり、現在は千葉商科大学サービス創造学部でともに特命教授を務める佐瀬守男氏(株式会社ホットランド代表取締役)と荒木重雄氏(株式会社NPBエンタープライズ執行役員事業担当)の提案で実現したもの。今回は、女性起業家の浅井満知子社長が登壇した。翻訳業務などを手がける株式会社A&People代表取締役社長である彼女が高校生に送ったメッセージとは。

 


歯科技工士から翻訳会社のトップセールスマンに

私は群馬県の長野原町という田舎町に生まれ育ちました。小さい頃から男勝りな女の子で、一生働きたいという思いで、親の反対を押し切って歯科技工士に。国家資格を取り、手に職をつけることで、男性と同じように活躍できると思ったからです。しかし、現実は朝早くから終電まで働く厳しい世界。休みの日も外に出ることはなく、会社の往復のみの毎日でした。3年経った頃から、これでいいのかと悩むようになりました。というのも、私の夢は、男性と同じように認めてもらう職業に就き、結婚をして、働く母親になることだったからです。もう一度人生のチャレンジをしてみようと思い、6年間働き続けた歯科技工士を辞め、転職を考えたのは27歳の時でした。当時はまだ女性の転職がすごく難しかった時代。20社くらい応募をして、ようやくコンピュータのシステム受託開発と独自のソフトウェアを販売している会社に転職をすることができました。その後さらに、翻訳会社のシステム事業部に縁があって転職。すぐに翻訳事業部の課長に引き抜かれ、ノルマ達成に向けてがむしゃらに努力した結果、半年で営業成績が1位になりました。
 

桐生南高校の女子高生からの意見により、群馬県出身の女性起業家として、株式会社A&People代表取締役社長の浅井満知子さんが登壇することとなった。


大学生を経て、女性が働くための会社設立へ

このままトップを守るためにはどうしたらいいのか、自分に何が足りないのか考えた時に、一般的な教養、ビジネスの基本を体系的に学びたいという欲求がひしひしと沸いてきました。そこから翻訳の営業と青山学院大学の2部学生という二束のわらじを履く生活。プレッシャーと戦う一方で、大学で得た知識を仕事に役立てることができることはとても楽しく、忙しいながらも充実した4年間を送ることができました。
その時に出会ったのが、現在千葉商科大学サービス創造学部の吉田優治学部長です。当時、青山学院大学で教鞭をとっていらした吉田教授から、ケーススタディ形式の授業で学びました。いつしか、きっと私と同じように一生働きたいと思う女性はたくさんいる、そういった女性たちを集めたらいい会社ができるのではないかと、リアルに経営したいと思うようになったのです。
大学の卒業と同時に手持ちの資金300万円で有限会社を設立しました。最初から順風満帆ではありませんでしたが、今年17年目を迎え、前期は過去最高益を達成することができました。現在は、日本6割、外資系4割の企業様とお取引させていただいています。

 

「起業をしたいと思ったきっかけは、当時青山学院大学の非常勤講師だった吉田優治先生(現・千葉商科大学サービス創造学部学部長)にあった」と、浅井社長は語る。


翻訳業界で注目のプレイン・イングリッシュとは

IR活動の普及と質の向上を目指して活動する、日本IR協議会というものがあります。IRとは、Investor Relationsの略で、企業が海外投資家に向けて経営状況や財務状況、業績動向の情報を発信する活動を言います。わが社では、海外投資家に向けてどのようにコミュニケーションを図っていくかなどを考える部署の方を集めて、英語のセミナーを行っています。
日本の翻訳業界は、原文中の語順に従って忠実に訳す逐語訳が一般的です。しかしながら、わが社では、ワンセンテンスを15~20ワード以内といったルールに従い、明確さと簡潔さを 強調し、より理解を促進するプレイン・イングリッシュを採用しています。これはイギリス発祥の方法で、1970年代後半にアメリカのジミー・カーター大統領が大統領令を発令した際に用いて、広く一般的になりました。現在アメリカの多くの企業が発信する英語は、プレイン・イングリッシュでできています。
一方、日本語は曖昧な表現が多いのが特徴です。とくに、社長のメッセージはセンテンスが長く、何が言いたいのかわかりにくくなってしまうこともしばしばですが、リーダーシップを感じさせるような文章にしなければ、海外の投資家は興味を持ってくれません。ですから、ヨーロッパとアメリカのIR協議会の正規メンバーであるわが社がこのようなセミナーを行っているのです。

 

競争が激しい翻訳業界の中で、浅井さんの会社が飛躍的な発展を遂げている理由として、「私自身が翻訳者や通訳者ではなく、営業やマーケティング出身の人間なので、いつもサービスを使う相手の立場で思考することを心がけているからなのかもしれません。」と浅井社長は述べた。


プロフェッショナル=自立すること

我々はプロフェッショナルな集団を目指し、利益を求めて活動をしています。プロフェッショナルになるにはどうしたらよいでしょうか。
社会には、ぶら下がっている人、ぶら下げられている人に分けられます。私はというと、人をぶら下げられる人になりたいと思って頑張ってきました。人をぶら下げられるような人になるには、プロフェッショナルになること、つまり自立することが大事です。自立とは、1.経済的な自立 2.精神的な自立 3.自分の人生に責任を持って、自分自身で築くことができる自立、この3つができて初めて自立していることになると思います。
人生は毎日が選択の連続です。会社名、大学名で選択をするのではなく、自分の価値基準を持ち、それに則した考えながら選択できるようになると、人生を築きあげ、謳歌できると思います。
夢は、自分がどのように生きていきたいかという指標です。職業は手段であって、夢ではありません。皆さんも自分のこだわり、何を大切にしたいか、どういう生き方をしたいのか、を考えてもらいたいと思います。学んだことや経験したことが武器となり、皆さんの助けになるはず。自立をして、起業する方がこの中から一人でも多く出ることを願っています。

 

講義の最後には浅井社長に高校生たちから質問をするコーナーが設けられた。「人生に決して無駄はない」と浅井社長は力説した。

 

<プロフィール>

浅井満知子(あさい・まちこ)

株式会社A&People代表取締役社長
群馬県長野原町生まれ。専門学校を卒業後、国家資格を取得し6年間歯科技工士として働く。その後、システム企業の営業職を経て、翻訳会社の営業プロジェクトマネージャー職に。1994年からは青山学院大学で経営学を学び、1998年10月、翻訳サービス会社A&Peopleを設立し、2000年より株式会社となる。2012年からは、化粧品事業に本格参入。青山学院大学修士MBAコース修了。