前田正俊
日本航空株式会社 本店 顧客販売部・第2グループ グループ長
サービス企業セミナー1 ゲストスピーカー
格安航空会社(LCC/ローコストキャリア)の参入によって、日本の航空市場も大きく様変わりし、より質の高いサービスが求められるようになってきた。千葉商科大学サービス創造学部の公式サポーター企業である日本航空株式会社(JAL)もまた、この状況下でさまざまなアプローチを行っている。現在、どのようなサービスが求められているのか。また、航空業界は今後どうなっていくのか。同社、本店顧客販売部・第2グループのグループ長の前田正俊氏が語る。
訪日外国人の増加にともない
現在JALは、グループ会社も含めて、年間約4000万人のお客さまにご利用いただいております。しかし、周知の通り2010年に経営破たんしました。再び潰れることは許されませんから、この経験を踏まえて、お客さまにより快適にご利用いただけるように新しいサービスを打ち出し続けています。
皆さんは航空業界に将来性があると思いますか? 私はあると思っています。
2013年のデータによると、世界では30億人強が飛行機を利用していて、ここ10年で見ると、利用者は10億人以上伸びています。航空業界は“平和産業”といわれており、世の中が平和だと需要が伸びます。一方、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年イラク戦争、SARSコロナウィルスの流行、今夏のタイでの政治情勢の悪化など、世界を揺るがす大きな出来事があるととたんに利用者が激減します。
しかしながら、基本的には需要は伸びると考えられています。特に今、アジア圏に注目が集まっていて、わが社ももちろんアジアをベースにしていますから、数多くのビジネスチャンスが期待できます。
昨今、中国人や韓国人をはじめ、訪日外国人が増加しています。日本政府は、2020年のオリンピック・パラリンピックまでに、その数を年間2000万人以上にしたいという目標を立てていますが、今年はこの調子でいくとその数字にきわめて近いものとなりそうです。ですから、海外の方にも日本の航空会社のよさを感じてもらいながら、お客さまそれぞれのニーズにあったサービスをしていかなければならないと強く感じています。
航空会社の競合相手とは
日本の航空会社のサービスは3つのタイプに分かれています。
われわれJALや全日本空輸(ANA)はフルサービスキャリアといい、主なサービスが料金に含まれています。路線網が非常に多いことや、旅行会社と組んだり、Webで販売したりして、販売チャネルが多いことも特徴といえます。ピーチエア、ジェットスター・ジャパン、バニラエアなどといった運賃が安い航空会社は、LCCといいます。LCCの影響で、これまであまり飛行機を利用しなかったお客さまが利用するようになり、国内線利用者が増加傾向にあります。機内食や座席選択などについては、追加料金を取るなどしてサービスを簡素化しているのが特徴です。さらにまた、これらの中間に位置づけられるスカイマークなどの会社もあります。
規制が多く、かつてはなかなか飛行機を自由に飛ばすことができませんでしたが、時代を経て、航空会社が路線を自由に変更することができるようになり、航空業界は群雄割拠の時代といえます。
ほかにも新幹線などもわれわれの強力なライバルとなります。空港は騒音問題もあり都心から離れたところにつくられていますが、新幹線は都心と都心を結び、利便性が高い。JALは世界トップクラスの定時性を誇る航空会社ですが、新幹線の正確さに比べるとかないません。
また最近は、実際に移動せず、テレビ会議で済ませるケースも多くなりました。今のところ影響は大きくないものの、今後、競合相手となってくるかもしれません。
お客さまにとっては便利なことですが、航空会社によっては厳しい時代の到来です。安全を大前提に、よりよいサービスを提供して、多くのお客さまに利用していただかないといけません。
JALの行っている取り組み
われわれフルサービスキャリアの作戦は、路線網が多くあることから、お客さまにマイレージをためて利用していただこうというものです。これを囲い込みの作戦と呼んでいますが、たとえば、提携している海外のフルサービスキャリア、わが社で言えばアメリカン航空を利用してもマイレージがたまったり、ラウンジが利用できたり、乗り継ぎもスムーズにできたりと、さまざまなメリットをもたらします。主に、JALではビジネスでの利用者をターゲットにしていますが、そのお客さまにビジネスでマイルをためてもらい、それをプライベートでも利用していただく。利用者が飛行機利用する際は全てJALを使っていただくことや、利用者の生活全体にもクレジットカードを使ってマイルをためていただくことを目標としています。ですから、かつては航空券だけでしかマイルをためることができませんでしたが、今は公共料金をはじめ、普段の生活でマイルがためられるよう、幅を広げています。
JALが求める人材像
JALが一度破綻していることは冒頭述べましたが、破綻した後に、京セラ株式会社から稲盛和夫会長が来られて、新しい企業理念をつくりました。
JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
1、お客様に最高のサービスを提供します。
1、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。
これは、社員が物心両面で満たされてこそ、お客様にいいサービスができるという意味です。また、JALフィロソフィーと呼ばれる、具体的な行動指針が書かれた手帳を社員一人ひとりが持っています。そこには、「人間として何が正しいかで物事を判断する」、「常に明るく前向きに」、「一人ひとりがJAL」といったことが書かれています。嫌なことがあった時には暗くなったり、安易に流された判断をしたりすることは、人間誰しもあると思います。しかしながら、仕事上で、全社員がこの手帳を持ち、定期的に勉強会をすることによって、実践できるよう努力を重ねています。
わが社は、過去に大きな航空事故を起こしています。事故にあわれた方にはお詫びしてもしきれないのですが、これを教訓として、安全を最優先にした教育を徹底して行っています。世界標準の航空会社の安全基準にくわえて、JALグループの独自の取り組みによって不完全な要素を極力なくすというものです。
わが社で求めている人材は、感謝の心と謙虚な学びを持っている人。これまで述べたように、航空業界は競争が激しいため、いろいろなことに果敢に挑戦して最後までやり遂げられる人を求めています。また、採算意識を持っていることも大事です。
いいサービスは、決してスタンドプレーではなく、社員それぞれがバトンを渡していくように仲間と一緒に連携していかないと成し遂げられないことだと思っています。
【前田グループ長に聞く】
――よりよいサービスとは何でしょうか。
前田 たとえば、JALでは従来より座席のピッチを広くし、お客さまに快適にお過ごしいただけるような環境をつくっています。もちろんこうしたハード面のサービス強化も必要ですが、一番大事なのはソフト面だと思っています。お客さまのニーズは人によって違います。社員は、お客さまが言葉に出さなくてもそれを察知してサービスすることが大事。特に、客室乗務員に対しては、採用の段階から気配りができるか重要視すると同時に、採用後の教育にも力を入れています。航空会社というと、皆さん派手なイメージをお持ちかも知れませんが、実際は社員一人ひとりがそれぞれの持ち場で役割を果たして、トータルでいいと思ってもらう地道な職業なのです。
――2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けては。
前田 JALは東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルエアラインパートナーをさせていただくことになりました。自国開催ということで、今まで以上に、海外のお客さまのご利用が増えると思います。言語対応ももちろんですが、先ほど申し上げたお客さまのニーズを感じとるという部分が、海外の航空会社を含め他社との競争に勝つには極めて重要だと思っています。