インターネット通信インフラの充実や、スマートフォン、タブレットなどデジタルデバイスの普及、それらに伴うSNSの浸透など、メディア環境が急激に変化する中、マーケティング戦略にも変革が起きている。千葉商科大学サービス創造学部の公式サポーター企業であり、これまで数々の印象的なテレビCMを世に送り出してしてきた資生堂では、現在、インターネットと連携したマーケティングにも力を入れている。同社、国内化粧品事業部・コミュニケーション統括部長の小出誠氏が語る、これからのメディア戦略とは。

 


広告に求められる役割

資生堂の創業は明治5(1872)年。「ものごとはすべてリッチでなければならない」という初代社長の信念を引き継ぎながら、国内シェアNo.1の座に君臨し続ける化粧品メーカーである。世界89の国と地域で化粧品を販売する同社では現在、化粧品事業のほか、レストラン、ヘアサロン、エステサロンなど、幅広い事業展開を行う。そうした中、商品のコミュニケーションも、時代にともない変化してきていると小出氏は語る。
 
「広告だけでは、お客さまに商品のすべての魅力が伝わりません。ですから、発表会などを通して、テレビや雑誌、新聞などで紹介していただくPR活動もお客さまへのコミュニケーション活動において重要な役割を担っています。その一方で、現在は自社サイトをはじめ、LINE、Facebook、TwitterなどのSNSやデジタルデバイスが大事なコミュニケーションツールとなっています。」
 
その言葉通り、資生堂は2013年、店頭に立つビューティーコンサルタントの接客用のタブレット端末に、自身の顔を映すだけで化粧を落とすことなく、その場でバーチャルのメーキャップができる「メーキャップシミュレーター」や、年齢や住んでいるエリア、肌タイプ、スキンケア方法などの条件を入力し、4日先の肌状態まで予測できる「ミライ肌予報」といった画期的なアプリを次々と開発。時代に呼応する新たな取り組みにチャレンジしている。
 


情報環境の激変によって使用するメディアも大幅にデジタルシフト

「この15年間で皆さんの周りの情報量はどのくらい増えたと感じますか? たとえば、総務省の調べでは20年近く前の1998年の情報量と比較して、10年後は500倍に増えました。この結果からもわかるように、今ではいろいろなメディアに情報を露出したとしても、実際にその情報に接触してくれる人はなかなかいない、という状況になっています。」
 
また、15~69歳を対象にしたテレビの接触時間とインターネットの接触時間を比較した調査でも、ネット接触時間がテレビの時間を上回っているのが現実だ。かつて広告費の中でも、テレビ広告のシェアがダントツで高かったが、現在はそうではない。メディア事情の変化にともない、いままでのマス広告費は削減傾向にあるという。
 
「広告がお客さまにどのくらい直接的に効いているかという計算式はそもそもなく、そのため、適正広告費がどのくらいかはわかりません。では、どのようにして広告費を決めるのかというと、シェア・オブ・ボイスといって広告量や広告投入量の他社比較を重視しています。これはたとえば、花王、コーセー、カネボウ、SK-Ⅱなどといったライバル企業の広告の露出度を比較して、相対的に広告費を決めるというもの。もちろん、この考えによる決め方がすべてではありませんが、当社においてはこの点を重視しています。」
 


資生堂のインターネット広告に対する取り組み

「インターネット広告には、課金する仕組みなど従来の広告とは異なる特徴があります。たとえば、テレビ、雑誌、新聞などのマス広告は、広告が露出された時点で費用が発生しますが、検索キーワードに連動して表示されるグーグルなどの検索連動型広告の場合、クリックされなければ費用は発生しません。その上、検索キーワードに興味や関心を持っているユーザーに向けて絞り込んで広告を表示することができるため、ターゲット層を絞り込んで訴求できるのが魅力です。」
 
また、YouTubeなどに代表されるように、制作費だけで掲載料がかからない動画コンテンツサイトも活用する一方で、新たな広告手法「ネイティブ広告」にも注目しているという。これは、ウェブ媒体やソーシャルメディアのデザインに違和感なく溶け込ませる広告のこと。通常の記事と見分けがつきにくいため、一般ユーザーに対して抵抗感なく情報を届けられるという意味もあり、資生堂でも重要視している。
 
「私たち広告セクションも、動画やスマートフォン、PCなどのデジタルに注目しています。ユーザーの中には、広告っぽい広告は見たくない人も増えていますから、いかに広告っぽくない広告をつくることができるか。そこも今後の課題ですね。」
 

千葉商科大学・吉田優治サービス創造学部長(右)からも質問が飛ぶ。
 

<プロフィール>

小出 誠(こいで・まこと)

株式会社資生堂 国内化粧品事業部・コミュニケーション統括部長
1962年東京都生まれ。84年早稲田大学商学部卒業後、資生堂入社。大阪地区での営業部門勤務後、商品開発を担当。宣伝部にて媒体担当、コーポレートデザイン室、経営企画部、社長室で、企業理念策定、コーポレートコミュニケーション、コーポレートガバナンスなどの担当を経て、2004年プロフェッショナル事業部プロフェッショナル企画部課長、その4年後には経営企画部次長。10年経営企画部・コミュニケーション企画室長、14年4月から現職。
 
 
※なお本記事は、千葉商科大学サービス創造学部の宮澤薫准教授による講義「広告論」のゲストスピーカーとして登壇された小出氏の講義内容を抜粋・編集したものです。
 
 
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