5大学合同 研究報告会「MRGP2017」

2017年12月、ゼミナールでマーケティングを学んでいる学生のための研究報告会「MRGP」が、千葉商科大学で開催された。MRGP(Marketing Research Grand Prix)とは、各大学の学生たちが行う研究報告会のこと。マーケティングに関する専門知識や実務的センスを学びながら、問題の発見や解決、プレゼンテーション、質疑応答などに関する能力の向上を図るものだ。予選を勝ち抜いた5チームで決勝が行われ、最優秀チームが決まる。今年は、千葉商科大学ほか、駒澤大学、成蹊大学、大東文化大学、東洋大学の5大学25チームが参加。学生たちはどのようなアイデアを発表し、この企画を通しどのような学びを得たのか。

 

5大学25チームが5会場に分かれて行われた予選会。他大学の学生も発表に熱心に耳を傾け、積極的に質問する様子が印象的だった。


松本大吾ゼミから2年生5チームが参加

MRGPでは毎年設けられる共通課題から興味のある課題を選び、それに関する先行研究や各班でのディスカッションを行って、各チームが最終的にテーマを決定する。今回は、とくにサービス業において、社員に向けたマーケティング「インターナル・マーケティング」、そして「時間」「場所」の3テーマとなった。
 

今回で6度目の参加となった千葉商科大学サービス創造学部の松本大吾ゼミは、2年生を中心に5チームが出場。松本准教授はこの研究報告会に学生たちを参加させる理由について、こう明かす。「私のゼミでは多くの課題を出します。それは多くの経験、とくに失敗の経験を積んでほしいからです。簡単な課題をこなして、成功だけを重ねても成長はありません。今の自分ができる課題に成功したところで足りない部分はわからないからです。できるかどうかわからない課題に挑戦していくこと、その課題で成果を上げるべく真剣に取り組んでこそ、成長があると思います。そして、かなりの確率で失敗もする。失敗をするからこそ、何が自分に足りなかったのかが分かるのです。そしてそれが分かれば次につながると思います。」
今回に関しては、「夏の合宿やゼミでの進捗状況報告において報告をしてもらい、研究としてまとまりそうな具体的な課題に絞っていきました。しかし、他大学が4月から作業を開始しているところ、(2年生の秋学期から正式に始まる)カリキュラムの関係もあり、私のゼミ生たちは夏頃からの開始になります。そのうえ、学術的な研究とは何かきちんと把握できないまま取り組んでもらっていますので、その負荷はかなりのもの」だったと話す松本准教授。苦しみながらも学生たちが生み出した研究テーマは、以下のようになった。
 

●A班「時間帯によるネーミングの効果」
●B班「焦る食事は不満足?」
●C班「料理の価格と提供時間」
●D班「販売期間の違うクーポンが与える興味・お得感の変化」
●E班「方言で恋をする―方言POPが消費者の製品評価に与える影響―」
(※E班のみ、有志で3年生が1チームがエントリー。)
 

松本ゼミA班の発表の様子。「夏休み期間中も作業したが、仮説の検証なども詳しくできなかった」(進士勇介くん/右)、「発表はなんとかできたが、内容が不十分だったと感じた」(近江屋佳穂さん/右から2人目)とそれぞれ反省点を挙げた。


善戦するも、決勝進出ならず

「価格と提供のクオリティが関係しているのは当たり前だが、そこに時間が加わるという着眼点は面白かった。さらにそこに味覚が加わったら、なおさら面白い発表になった」と審査員から講評されたのが、「料理の価格と提供時間」をテーマに発表を行った松本ゼミのC班だ。商品の価格が自分の許容範囲内の価格ならば購入が見込まれるが、その基準から離れてしまうと、購入の見込みが低くなるということに着目。料理の提供時間も価格と同じようなことが言えるのではないかと考え、大学生30人を対象に、ハンバーガーの価格についての調査を行った。
その結果、価格が安い、高いにかかわらず、提供時間が長くなるにつれて期待値が高まり、逆に提供時間を短くすることで満足感が高まることから、提供時間を変えることで期待と満足を操作できると結論づけた。
「面白い」と評価を受けたものの、決勝に駒を進めることができなかったことに対し、メンバーのひとり、平澤瑞貴くん(サービス創造学部2年)は、「力及ばずです。調査期間が短いのはもちろんですが、私たちは面白いテーマを見つけるのに時間がかかってしまいました。それが一番の敗因。もちろん、他の先生方はゼミが始まるのが遅かったからと言ってくださいますが、他大学の方たちは面白いテーマを早く発見できたわけですから、それは言い訳にしてはいけないと思っています。審査員の方々は、企業の人も使える目線で講評されていると思いましたが、私たちにはその観点が足りませんでした。企業に有益になるようなことをしようというよりもMRGPのテーマに沿って頑張ることで精一杯だった。審査員の先生に、『実食につなげられたらよかった』と言われて、たしかにそれができたらもっといい発表になったかもしれませんね」と反省の弁を述べる。
何度もアイデア出しをし、松本准教授にぶつけるも差し戻しをされ、ようやくテーマが決まったのは、10月半ばのことだという。小林健太くん(同2年)は、「秋学期からマーケティングのゼミに入りましたので、他大学とマーケティングの知識が違うと思います。勉強してその差を埋めないと、決勝には進めないと思いましたね」と話す。
結果を受け、吉澤勇くん(同2年)は、「資料を配られた時点で回りの大学はすごいなと思いましたし、私たちの内容と差を感じましたね。グループワークをもっとしっかりやったほうがよかったと感じています。休み時間に集まって論文を探して、パワポをつくって、が精一杯で、進め方がわからなかった。今日の発表を聞いて、自分たちが課題を与えられた時に、どのように進めたらいいのかが分かったので、今後、企業課題に取り組むうえで参考にしていけたらいいなと思います」と悔しさをにじませた。
 

また、「いつまでに何をするのか明確に決めないで進めていたような気がします。ビジネスにおいてもそうだと思いますが、タスクを決めていかないとスケジュールが進まないのでそこが大事だと痛感しました」(小林くん)、「課題に取り組む上で、最終ゴールを決めていなかったことも反省点。明確に“決勝に行く”ではなく、“決勝に行けたらいいね”でした。しっかりと計画を立て、それを達成するまできちんと行うということができれば、今回よりいいものができると思っています」(平澤くん)とそれぞれが今回の発表を通し、成長した様子が垣間見えた。
 

松本ゼミC班。右から芝崎朝輝くん、吉澤勇くん、小林健太くん、平澤瑞貴くん。平澤くんは、「ネーミングに関するアンケートも取ったのですが、まとめてる段階で間に合わなくなってしまって、今回は省略してしまいました。もっと早めにできていれば、発表がもっと厚いものになったかもしれません」と話す。


優勝チームからの学びとは

今回のMRGPで最優秀賞に輝いたのは、駒澤大学の駒澤大学経営学部市場戦略学科の中野香織ゼミの2年A班となった。テーマは「あなたは何分待てる?―待ち時間のストレス減少と店舗評価の向上―」。インターネットをはじめとする技術革新により生活の利便性が増したことで「待てない」傾向に拍車がかかっていると考え、待ち時間のストレスが減少することで店舗の評価に正の影響を与えるのかどうか解明することを研究テーマに掲げた。
結果は、たとえば、混雑状況がリアルタイムで分かるようなアプリや、店内の調理工程の可視化、クーポン配布などにより、待ち時間のストレスを減少させ、店舗の評価、集客率、売上アップにつながると分析した。審査員からは「素敵なプレゼンテーションで何度でも聞くことができる」、学生からも「パワーポイントや発表の仕方が分かりやすかった」と、高評価となった。
 

最優秀賞、および学生賞に輝いた駒澤大学の駒澤大学経営学部市場戦略学科の中野香織ゼミの2年A班となった。

 

松本ゼミB班の加藤大地くん(同2年)は、「決勝進出のチームを見ていると、分析や仮説の量が圧倒的に多かったですし、論理的なつながりもありました。僕たちの発表も論理的なつながりはあったとは思うので、仮説の量が増やせればもう少し変わったのではないかと感じています。しかし、優勝したチームはスライドの見せ方がすごいと思いましたし、何よりマーケティングの知識がない人が見ても、内容が理解できる。さらに学術的な研究もしっかりされていて、MRGPの完成形だと思いますね。発表は20分の制限時間内と決められていましたが、自分たちのチームは13分。でも決勝のチームは、だいたい19分で終わっています。感心したと同時に、そういう部分も自分たちの足りなかった点。すごく悔しいですけれど、反省点が多いということは、改善点も多いので、それが分かったのはよかったです」と振り返った。
 

「テーマが分かりやすかった」と講評された松本ゼミB班。加藤大地くんは、「2年と3年では、発想力が違いますね。やっていて楽しかったです。来年もまたやりたいと思います」と意気込んだ。

 

松本准教授は、「決勝には進めなかったですが、報告できるレベルにまでまとめきったことは、相当の努力だったと思います。一方、不利な部分はあれど、決勝に進めなかったことも事実。決勝進出チームに比べて完成度やプレゼンテーションの面で、まだまだ劣っています。今回の優勝チームも2年生ですし、彼らだってもっとできたのではと思います。我々に何が足りなかったのかについては、ゼミの中で検討していきたい」と学生たちを鼓舞した。
 

松本ゼミで記念の一枚。それぞれ発表を終えて、ほっとした表情を見せた。

 

【参加大学】
・千葉商科大学サービス創造学部(松本大吾准教授、5チーム)
・駒澤大学経営学部市場戦略学科(中野香織准教授、3チーム)
・成蹊大学経済学部経済経営学科(井上淳子准教授、4チーム、石井裕明准教授、4チーム)
・大東文化大学経営学部経営学科(五十嵐正毅准教授、1チーム)
・東洋大学経営学部マーケティング学科(大瀬良伸准教授、6チーム)