大学生意識調査プロジェクト FUTURE2015

2015年12月、公益社団法人東京広告協会は「大学生意識調査プロジェクト FUTURE2015」を主催。首都圏の大学生816人を対象に実施した「SNSを使った生活行動に関する調査」の結果を報告した。調査を行ったのは、千葉商科大学をはじめ、青山学院大学、駒澤大学、上智大学、専修大学、日本大学でマーケティングを専攻する6大学・19人の学生たち。プロジェクトに参加した学生はどんな学びを得たのか。

 


千葉商科大学から松本大吾ゼミが初参加

1995年より行われている同プロジェクトは今回で21回目。東京広告協会の指導の下、企画、実施、分析すべてを学生たちが行っている。
千葉商科大学サービス創造学部の松本大吾ゼミナールでは、今年からこのプロジェクトをゼミの活動内容に取り入れ、今回初参加を果たした。プロジェクトが開始した5月当初、同ゼミからは10人近くが参加していたものの、結局12月の発表まで残ったのは同学部3年の井上恭兵くんのみ。井上くんにその理由を聞くと、「やはり金銭面が非常に大きかったと思います。8カ月間でかかった費用は交通費を中心に約10万円。そこが他の学生たちが挫折してしまった原因ではないでしょうか」と語る。アルバイトの時間もとれず、“金欠”状態だったというものの、それ以上に「大きな学びがあった」と振り返った。「他大学の学生と自分を比較できたのは、すごく勉強になりました。たとえば、サービス創造学部ではプレゼンの機会なども多いので、そういう点では他大学の学生たちよりも場慣れしていたし、秀でていたように思います。一方で、メンバーで週に1度集まって課題の発表を行ってみると、他大学の面々は少し面倒だなと思うことでも手を抜かずにやってきていましたし、深掘りしていたように感じました。彼らはボキャブラリーも知識も豊富なので、周りに納得のいく説明ができる。改めて、本を読むことや座学での学びの大事さに気づくことができました。『井の中の蛙、大海を知らず』という諺がありますが、まさに外に出ることで、視野が狭いことを痛感しました」と振り返る。
 


身近な人とのつながりを求めるためのSNS

今回、井上くんら6大学・19人の学生たちが調べたテーマは、「SNSを使った生活行動に関する調査」。学生たちは、スマホのカメラが高機能になり写真に対する注目度が高まっている点に着目し、「写真」「SNS」「人間関係」の3つを軸に、首都圏の大学生816人にアンケート調査を実施した(*)。その結果見えてきたのは、学生たちにとって、SNSは「Social Networking Service」ではなく、「Small Networking Service」であるということ。学生たちは、幅広く世の中とつながるのではなく、より身近な人とのつながりを求めていることがわかった。
学生たちが最もよく使うツールのベスト3は、「LINE」(99.5%)、「Twitter」(92.4%)、「Facebook」(70.6%)。そんな中、利用者急増中のSNSが「Instagram(通称・インスタ)」だという。「最もおしゃれ」「時代の最先端」という意見が多く、63.3%の学生が利用。写真を通じて気軽に自分をアピールできる点が、絶大な人気につながり、「大学生らしいSNS」であることがわかった。
現実生活の充実を意味する「リア充」についての問いには、「SNSに頻繁にイベントや遊びの写真を載せている人」という回答が約7割を占めた。学生にとって「リア充」とは写真が充実している「フォト充」だというのだ。SNSに投稿される写真は、「共有」「見返す」ことで仲間との絆を深めるとともに、周囲からの評価につながる最良のツールになっていると分析した。そして、学生たちの行動モデルは、かつての「AIDMA」(Attention/注意、Interest/関心、Desire/欲求、Memory/記憶、Action/行動)ではなく、共感の「イイね!(Iine)」、仲間になる「Grouping」、撮って共有する「Shoot&Share」、拡張・加工する「Augment」、拡散の「Spread」の頭文字を組み合わせた「IGSAS」(イグサス)と結論づけた。
 


19人のメンバーから選ばれた6人が発表を行った。

 

学生時代にこのプロジェクトに参加していた同学部の松本大吾准教授は、「写真の意味については、もう少し深く知りたかった。かつて写真は特別なものでしたが、今は気軽にスマホで撮影でき、メモ代わりとしても利用されています。写真の意味が変化してきている点をもっと深く掘り下げることで、学生たちの行動パターンをより深く分析できるのではないか」と問題提起をした。「面白い結果が出たと思います。SNSにおけるさまざまな問題やトラブルの根源が、今回の調査内容から透けて見えていたのではないでしょうか。ただ個人的には、一人ひとりがSNSに頼らず孤独に耐える力があってもいいのではないかと思っています」と学生たちにメッセージを送った。
 


松本大吾准教授は、「学生たちには学外に出て刺激を受けてほしいと思っています。立派にやり遂げたところはよかった」と学生をねぎらった。


他大学との交流の先に見えたもの

井上くんは発表後、「改めて自分たち学生が、何を考えているのか気づくことができました。また、自分たちにとっては当たり前だけれど、大人から見たら『面白い!』と思う若者ならではの発想があったと思います」と充実した表情を見せた。その上で、「自分の大学で活動していただけでは、自分に足りない部分やダメな部分が見えてこなかったと思います。このプロジェクトに参加し、それに気づくことができたのはよかった点です。周りを知らないのに自分の大学や学部が一番優れていると思い込んでいてもダメだと思います。常日頃、周りの先生方から『物事を多面的に見なさい』『本質を見抜く力や考える力が足りない』と言われますが、こうした活動を通じて改めて実感しました。もちろん外に出て行くことはひとつの選択肢であって、それが全てではないと思いますが、僕はこのプロジェクトに参加してそれを知ることができた。だからこそ、後輩たちにもおススメしたいですね」と胸を張った。2年時から他大学とのさまざまな交流に参加してきたという井上くんだからこそ、経験から発せられる後輩たちへのメッセージには重みがあった。
 


千葉商科大学サービス創造学部3年の井上恭兵くん(右)「自分の長所、短所も発見できてよかった」と語る。所属するゼミの松本大吾准教授(左)とともに。

(*)調査期間/2015年7月14日~31日
調査対象大学/千葉商科大学、青山学院大学、駒澤大学、上智大学、専修大学、日本大学