片桐正大
Active Motion Pte. Ltd CEO/President

「アジアの資金が海外に流出している」と、アジアにおけるスポーツビジネスに警鐘を鳴らすのは、現在、インドネシアを中心に台湾、シンガポールなどアジアでスポーツビジネスを展開しているActive Motion Pte. Ltd CEO/Presidentの片桐正大氏だ。千葉商科大学サービス創造学部で、中村聡宏専任講師が担当する講義「スポーツ・エンターテインメントサービス論(愛称:Cheers!)」のゲストスピーカーとして登場した片桐氏が語る「アジアにおけるスポーツビジネス」とは。


インドネシアを中心に「VIPを意識した」ビジネスを展開

学生時代に「スポーツビジネスの世界で生きることを決めた」という片桐氏は、大学を卒業すると、業界初の新卒採用でプロ野球・福岡ダイエーホークスに入社した。2005年には、新規参入した楽天イーグルスの創業メンバーとして参画。その後、中国へ留学、中国や台湾、インドネシア、シンガポールへと渡り、現在は日本人としては初めてインドネシアでスポーツビジネスを展開している。「インドネシアは、人口は日本の倍の2億5000万人、国土は日本の4倍という親日国。今後成長が見込めると思い、この地でビジネスを始めました。」インドネシアのプロサッカーリーグクラブの経営支援をしたり、Jリーグのクラブチームがインドネシアで試合をすることがあればそのサポートをしたりする事業を行っているが、中でもとくに「VIPを意識して」いると片桐氏は言う。なぜVIPなのか――。「東南アジアは税制や社会構造などの理由により、貧富の差が激しいことが根幹にあります。日本以上に多くの資産を持っているVIPから消費や投資を引き出すことができれば、東南アジアのビジネスの活性化につながります」とその理由を明かす。しかしながら、発展途上国のスポーツの現状は、BOP(base of the pyramid)といって底辺の人たちからしか売上をあげることができていない。そこで片桐氏は、日本人ならではの「おもてなし」や日本で培ったスポーツビジネスの経験を生かし、現地のVIPを満足させるためのさまざまな事業を行っているのである。
 

「学ぶはまねぶ(真似る)と言い、尊敬する人のことを真似ることから学びは始まります。私自身、尊敬する方にお会いするときには、徹底的にその周辺情報を集め、いい質問ができるよう意識する。今日は皆さんに、そういう意識が伝わる場になれば」と開口一番、片桐氏は学生たちに語った。

 


アジアの資金が海外に流出

「たとえば、国際オリンピック委員会(IOC)、国際サッカー連盟(FIFA)、国際陸上競技連盟(IAAF)など、多くのスポーツ団体は100年前からヨーロッパで運営されています。それに疑問を持ったアメリカは、4大スポーツ(MLB/メジャーリーグ、NBA/バスケットボール、NFL/アメリカンフットボール、NHL/アイスホッケー)を立ち上げ、ビジネス面を強化。こうして、世界中の有名なアスリートがアメリカでスポーツを行い、それを世界中の人が見るというビジネスモデルができました。これに対抗し、ヨーロッパでは、欧州のサッカーチームの最強を決めるUEFAチャンピオンズリーグを開催するようになった。アジアではどうしたか。こうした欧米のスポーツにアジアの企業が巨額の出資を行うことで、アジアの資金が海外に流出してしまった、これがスポーツビジネスの現状なのです」と危機感をあらわにした。

 
実際に、MLBでも同様のことが言えると言う。1995年にロサンゼルス・ドジャーズに入団した投手の野茂英雄に始まり、イチロー、新庄剛、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大ら、日本のプロ野球のスター選手が海を渡り活躍してきた。とくに、2006年に台湾人の王建民がニューヨーク・ヤンキースでアジア人投手最多記録となる19勝を挙げたことにより、アジアのMLB熱はさらに加速。「現地に応援しに来る日本人、アジア人のために旅行代理店は席を抑える。一方、テレビで見たいという希望者が増え、NHKが衛星放送で放送を開始するなど高額の放映権料が動く。こうしてたくさんの人の目に触れるとなれば、日本企業のスポンサーがつく、という構図が生まれるのです」と片桐氏。現在、海外スポーツチームの大きな資金源は、日本を含むアジアの企業のスポンサー料というのが現状なのである。
「今後、スポーツをビジネスにしたい、エンタメ業界で身を立てたいという方が多くいると思います。その第一歩として、自分の身の回りにいる人、そして日本人を含むアジア人がより幸せに、より笑顔に生きていくためにはどういう方法があるか、またどういう人たちと手を取り合わねばならないかなどを考えることが大事。こうしたことを考えながら、皆さんと一緒に闘っていけたらいいと思っています」と学生たちに呼び掛けた。

 

学生たちに質問を投げかけながら講義を行った片桐氏。講義終了後も、学生たちからさまざまな質問が飛んだ。

 

千葉商科大学サービス創造学部の中村聡宏専任講師(左)とともに。

 

<プロフィール>

片桐正大(かたぎり・まさひろ)

Active Motion Pte. Ltd CEO/President
 
1975年生まれ、愛知県出身。立教大学卒業後、新卒でプロ野球福岡ダイエーホークスに入社。2005年NPB50年ぶりの新規参入を果たした楽天野球団に、創業メンバーとして参画。監督付き広報、マーケティング、営業などを担当。2010年パリーグ6球団の共同出資会社であるパシフィックリーグマーケティン株式会社にて営業部長を出向兼務。翌年、上海に語学留学。2014年、Active Motion Pte. Ltdを設立。中国、台湾、シンガポールでの事業を経て、現在はインドネシアを中心に、現地の人たちに向けたスポーツ周りのビジネスを展開している。