カフェブームの先駆けとなった「Sign」や世界一の朝食「bills」、チョコレートバー「マックスブレナー」の運営、目黒のホテル「CLASKA」の企画、ハイブランドと提携した「GUCCI CAFE」「JILL STUART CAFE」などの運営受託……。最近話題の店舗を数多く手掛けるのが、株式会社トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長/プロデューサーの中村貞裕氏だ。同社は、千葉商科大学サービス創造学部の公式サポーター企業であり、2015年4月にオープン予定の新学食「The University Dining」をプロデュースする。そんな中村氏が提唱する「話題を作るプロデュース術」とは。

 

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2015年春、新しいスタイルの学食づくりを目指し、千葉商科大学・
吉田優治サービス創造学部長(左)とタッグを組む中村貞裕氏(右)。

 


「ミーハーな性格」が仕事の原点

僕はミーハーなんですよ。「ミーハー」というと、いい意味では好奇心が旺盛、アグレッシブな人に見えるかもしれませんが、悪い意味でとらえると、熱しやすく冷めやすい、何にでも興味を示すが続かない人ということにもなります。バスケットボール、ギター、DJ、スケートボードなど、僕は小学生の頃から流行りものには何でも手をつけるけれどなかなか長く続かない、という性格でした。僕がちょうど大学生になった頃には、自分が飽きてしまったことを根気よく続けて“形”にしている人が周りに出てきました。彼らを見たときに、自分が続けられなかったことの後悔やコンプレックスを感じるようになったんです。
僕は、広く浅くという人を「ジェネラリスト」、ひとつのことを続けている人を「スペシャリスト」と呼んでいるんですが、自分のこうした「ジェネラリスト」な部分の性格をいかして、逆に、“スーパーミーハー”に徹しようと思ったんですね。それが、今しているような仕事へと結びついていくきっかけだったと言ってもいいかもしれません。
 



100になるための数式と人脈が成功への鍵

もし、成功するために100の知識が必要だとしたら、スペシャリストは100のものを1つ持っている人。でも、僕は小さな1というものを100個持つことで、スペシャリストと同じ100になると考えたんです。過程はどうあれ、100にするために自分なりの数式を見つけられれば、成功につながります。ビジネスやプロジェクトをやっていく上で、こうした100の力を持っている人たちを巻き込んでチームを組むことができれば、可能性は何倍にも増えていきます。
チームを作るために必要な人脈をどのようにして構築するか。そのためには、知ったかぶりをしないで、優秀なインタビュアーになることが大事です。僕は本の立ち読みを趣味にしているんですが、それは、いろいろな情報を仕入れて「体中をトゲだらけ」にするため。そのトゲが元になり、初対面の人とも話すきっかけができるものなんです。人脈を広げるといっても、1対1ばかりでは限界がありますから、自分だけで完結しようとしないこと。チームや大学など、組織を活用して広げようという意識を持てばどんどん輪が広がっていくと思います。
また、どんなことをしても「ありがとう」と言われるように、Win−Winの関係を作りたい。その想いで仕事を積み重ねることが、人脈を広げていくことにつながります。
 



「インプット」と「アウトプット」を習慣づける

マーケティングに対する“トランジット流”の考え方の中で、「インプット」と「アウトプット」はとても大切にしています。時間が許す限り、人と会ったり、雑誌を見たり、海外に行ったりして色々なものをインプットしてほしいと思います。
僕は「最大公約数の中からトレンドを見つける」と言うのですが、ありとあらゆる情報を持っていれば、ふとしたときにキーワードが出てきます。英会話を3年くらいやっていると、半年後、急にヒアリングできるようになるように、ありとあらゆることをインプットしておけば、急にキーワードが出てくるようになるものです。
一方、アウトプットも大事です。多くの方が最近SNSを使っていると思いますが、大切なのは「情報をシェアする」気持ち。発信し続けることで、結果的にインプット力が高まります。
内容は何でもいいと思います。インプット、アウトプットを習慣づけてください。
 



さざ波から大波へ、ライフスタイルにカルチャーを根づかせる

3年くらい前から、ブームを作るというよりも、ライフスタイルに影響を与えるようなトレンドを作ることが求められるようになりました。たとえば、GAP、ZARA、H&Mなど、「ファストファッション」と呼ばれるブランドがあります。ファストファッションというカテゴリができることで、さざ波が大波になり、日本のカジュアルファッションのライフスタイルに変化をもたらしました。
しかし、単にトレンドを作ろうというだけではなくて、僕らが常に考えているのは「ライフスタイルショップに○○なカルチャーを根づかせる」ということです。たとえば「bills」だったら、「朝食カルチャーを 日本に根づかせるためにやっているライフスタイルショップ」というわけです。どんなカルチャーを根づかせたいかを考え、実行することが僕らの使命だと思っています。
 



面倒くさがらず、スピードを意識する

仕事でも何でもそうですが、成功するために大切なことは、縁と運とセンスをうまく利用することです。よい運もよい縁もよいセンスも、その人の日々の努力を積み重ねた結果得られるもの。時間を惜しむことなく、マメに動くことが大切です。
さらに僕は、これら3つに加えて「スピード」を重要視しています。とくに飲食業界はトレンドが命なので、放っておくと、ほかの人が先にやられてしまうこともしばしばです。ベンチャー企業が、大手と同じスピードで仕事をしていたのでは、僕らの強みはいかせません。
そしてもうひとつ、「面倒くさがらない」ということ。面倒くさがらないから、スピードが上がる。それが、よい縁、よい運、よいセンスに変わっていくのです。逆に時間に余裕があればあるほど、面倒くさい、あとにしよう、と感じてしまうこともありますが、そういうときこそ、すべての成功につながると思ってすぐに動いてみてください。
 


 

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千葉商科大学の学食をプロデュースすることになった中村氏率いるトランジットジェネラルオフィス。その学食についても、「“千葉商科の学食”ではなく、“学食”そのものがトレンドになっていると宣伝することで、さらに注目を集めることにつながる」と中村氏は期待する。「僕らは、空間作りをする際に“遊び場を作る”と言います。遊び場というとネガティブなイメージを持つ人もいると思いますが、僕は、オンとオフが一緒になっているワクワクするイメージを持っています。ですから今回も、学食という名の遊び場を作りたい、と思っています。吉田優治学部長をはじめ、先生や学生の皆さんからパワーを感じ、チームで面白いことができるんじゃないかという意欲が芽生えてきました」と語り、意欲を示す。完成は2015年春。そしてそこにどんなカルチャーが根づいていくのか、今から楽しみである。
 

<プロフィール>

中村 貞裕(なかむら・さだひろ)

株式会社トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長/プロデューサー
1971年生まれ。慶応大学法学部卒業後、伊勢丹へ入社。30歳の時にトランジットジェネラルオフィスを設立。その後、カフェ「Sign」、ホテル「CLASKA」の企画、世界一の朝食「bills」の運営など、話題の店舗・空間を次々とプロデュース。グループ会社として、ケータリングイベント会社「TRANSIT CREW」、不動産プロデュース「REAL GATE」、人材紹介会社「Departure & Partners」など、さまざまな事業を展開している。
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